詩歌しいか)” の例文
「同じ芸術だから詩歌しいかの趣味のあるものはやはり音楽の方でも上達が早いだろうと、ひそかにたのむところがあるんだが、どうだろう」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな場合にりっぱな詩歌しいかができてよいわけであるから、宮の女房の歌などが当時の詳しい記事とともに見いだせないのを筆者は残念に思う。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
近日、友人徳永柳洲りうしう君はを、予等夫妻は詩歌しいかもつて滞欧中の所感を写した「欧羅巴ヨウロツパ」一冊を合作がつさくしようと計画して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
こう云う皮膚は、雨にさらされ風に打たれつゝ馬背ばはいに日を暮らす武人のものでなく、深窓に育って詩歌しいか管絃かんげんの楽しみより外に知らない貴人のものである。
ただその日本第一の高山たると、種々の詩歌しいか伝説とはこれをしてく神聖ならしめたるも、その神聖なる点は種々に言ひ尽して今は已に陳腐に属したり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
われ此の花に相対して馥郁たる其の香風かうふううちに坐するや、秦淮しんわい秣陵まつりよう詩歌しいかおのづから胸中に浮来うかびきたるを覚ゆ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして激烈な信仰や美しい詩歌しいか絢爛けんらんたる美術は、すべてこの暗黒を土壌として生育しているようである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私は小説家ばかりでなく、詩歌しいかの作者としてもまた新しい婦人の出て来られることを祈っておるのです。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
泡鳴著作多く、詩歌しいかに小説に、独自の異才を放つ。その感情の豊饒ほうじょうと、着想の奇抜は、時人を驚せり。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかれども革新者の模範として、日本男児の典型として、長く国民の心を燃すべし。彼の生涯は血ある国民的詩歌しいかなり。彼は空言を以て教えず、活動を以て教えたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この他、『唐詩選』の李于鱗りうりんにおける、百人一首の定家ていか卿における、その詩歌しいかの名声を得て今にいたるまで人口に膾炙かいしゃするは、とくに選者の学識いかんによるを見るべし。
読倫理教科書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
餞別せんべつとして詩歌しいかを贈られそろ人々は烏丸大納言資慶からすまるだいなごんすけよし卿、裏松宰相資清うらまつさいしょうすけきよ卿、大徳寺清巌和尚、南禅寺、妙心寺、天竜寺、相国寺、建仁寺、東福寺ならびに南都興福寺の長老達に候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我もし兎も角もならん跡には、心に懸かるは只〻少將が身の上、元來孱弱の性質、加ふるにをさなきより詩歌しいか數寄の道に心を寄せ、管絃舞樂のたのしみの外には、弓矢の譽あるを知らず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
私は何かしら寂しい物足りなさを感じながら、何か詩歌しいかの話でもしかけようかと思ったが、差し控えていた。のみならず、実行上のことにおいても、彼はあまり単純であるように思われた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笠女郎かさのいらつめのごとく男に恋を迫る歌も万葉には多い。確かに天平の女は男にまけてはいなかった。詩歌しいかにおいても政治においても宗教においても、天平時代ほど女の活躍した時代はほかにない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
然るに或る他の芸術、例えば音楽や、詩歌しいかや、舞踊等は、物の「真実の像」を写そうとするのでなく、主として感情の意味を語ろうとする表現である故に、前のものとは根本的に差別される。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
詩歌しいかのやうな仕事などならば、或は頭の中で半分は進める事も出来、かなり零細な時間でも利用出来るかと思ふが、造型美術だけは或る定まつた時間の区劃が無ければどうする事も出来ないので
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
而も世を棄て名を棄て、更に三界に流浪せしめしは誰ぞ。我もとより貧しけれど天命を知る。我が性玉の如し。我はこれ畢竟詩歌しいかまい、清貧もとよりる。我はめ、妻はいまだ痴情の恋に狂ふ。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
懸想けさう詩歌しいかとさかづきとを
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
詩歌しいかみてぞ伝えたる
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
されど世に理窟りくつをも感ぜず思想をも感ぜず詩歌しいかをも感ぜず美術をも感ぜざるものあらば、そは正にこのやからなる事を忘るるなかれ。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其れとともに都会の住民に対しては春秋四季しゆんじうしきの娯楽を与へ、時に不朽の価値ある詩歌しいか絵画をつくらしめた。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しこうしてその無聊ぶりょうに堪えざるや、書を獄外に飛して同志を鼓舞し、あるいは金を父兄に募りて、獄中の仲間を饗応きょうおうし、あるいは書をしょうし、あるいは文を草し、あるいは詩歌しいかを詠じ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
戀も、詩歌しいかも、ざえも、名も
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
第十二章 日本詩歌しいかの特色
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「ちょっと伺っておきますが、朗読会と云うと何か節奏ふしでも附けて、詩歌しいか文章のるいを読むように聞えますが、一体どんな風にやるんです」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それと共に都会の住民に対しては春秋四季の娯楽を与え、時に不朽の価値ある詩歌しいか絵画をつくらしめた。
うれしい事に東洋の詩歌しいかはそこを解脱げだつしたのがある。採菊きくをとる東籬下とうりのもと悠然ゆうぜんとして見南山なんざんをみる。ただそれぎりのうちに暑苦しい世の中をまるで忘れた光景が出てくる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一 詩歌しいか小説は創意を主とし技巧をひんとす。技芸は熟錬を主として創意を賓とす。詩歌小説の作措辞そじ老練に過ぎて創意乏しければ軽浮けいふとなる。然れどもいまだ全く排棄すべきにらず。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
小野さんはすぐ来るのみならず、来る時は必ず詩歌しいかたまふところいだいて来る。夢にだもわれをもてあそぶの意思なくして、満腔まんこうの誠を捧げてわが玩具おもちゃとなるを栄誉と思う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこまでも世間を出る事が出来ぬのが彼らの特色である。ことに西洋の詩になると、人事が根本になるからいわゆる詩歌しいかの純粋なるものもこのきょう解脱げだつする事を知らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
舞踏でも音楽でも詩歌しいかでも、すべて芸術の価値はここに存していると評しても差支さしつかえない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
めたりと云うには余りおぼろにて、眠ると評せんには少しく生気せいきあます。起臥きがの二界を同瓶裏どうへいりに盛りて、詩歌しいか彩管さいかんをもって、ひたすらにぜたるがごとき状態を云うのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから吾人はいつの世いずくに生れてもこの二つのものを忘れることが出来ないです。この二つの者が現実世界にあらわれると、愛は夫婦と云う関係になります。美は詩歌しいか、音楽の形式に分れます。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)