いぬ)” の例文
「ちょうど、時刻もはや、いぬの下刻に近かろう。——そち一名が、いつまで、見えぬので、仲間の者が皆、案じているにちがいない」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十二支というのは、子、うしとら、卯、たつうまひつじさるとりいぬの十二で、午の年とか酉の年とかいうあの呼び方なのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いぬの下刻になった時、九郎右衛門は文吉に言った。「さあ、これから捜しに出るのだ。見附けるまでは足を摺粉木すりこぎにして歩くぞ」
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「私近頃、犬の玩具が好きになったのよ。それも無理はないわ、私はいぬ年の生れだもの。あらなぜそんな怖い顔するの?」
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ひとつ所を行きつ戻りつして暫くは捕手の眼を逃れていたが、その夜のいぬこく(午後八時)頃にとうとう縄にかかった。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朔日ついたちとりでしたから、……酉、いぬ……、あっ、の四日……。それで、鼠が四匹か……。どっちみち、あの碁石を
あるいぬ上刻じょうこく頃、数馬は南の馬場ばばの下に、うたいの会から帰って来る三右衛門を闇打やみうちに打ち果そうとし、かえって三右衛門に斬り伏せられたのである。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸いこの火も室町小路こうじにて止まりました。そうそう、松王様はその夕刻、おっつけいぬの刻ほどにひょっくりお見えになり、わたくしがおうらみを申すと
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
謡曲ようきょく羽衣はごろもの一節、がらになく風流なところのある男で、大迫玄蕃が、余念なくおさらいにふけっていると、夜はいぬ上刻じょうこく、五ツどき、今でいう午後八時だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しやしいよ/\明日の早天さうてん出立しゆつたつ致す故御暇乞いとまごひに參り候なりと村中へ暇乞にまはれり此時寶澤はやうやく十四歳の少年なり頃は享保きやうほいぬ年二月二日成し幼年えうねんより住馴すみなれし土地を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『嬉遊笑覧』八に、このじゅ、もと漢土の法なり。『博物類纂』十に、悪犬に遇わば左手を以てとらより起し、一口気を吹きめぐっていぬに至ってこれをつかめば犬すなわち退き伏すと。
この時は二度受けたので、初度は正月二十八日いぬの刻から始めて、四月八日うまの刻まで七十日あまりで終り、再度は六月十二日の刻から七月二十五日巳の刻まで四十日余で成就した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
寄せてくる動きも思切ったもので西側から侵入してきた一部はほとんど前庭の方まで斬込んだ……いぬの上刻(午後八時)になると、塀際へ取着いた一部が、三ヶ所で築地塀を崩しはじめた。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その犬に向かい、「我は虎いかになくとも犬は犬獅子のはがみをおそれざらめや」とよみ、右の手の親指より、いぬうしとらと指を折りてつよく握るなり。犬、恐れてにぐること奇妙なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「——(仲秋望の夜いぬの刻、石筍の影地に落つるところ)——とある」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
便所は鬼門きもんを避け、腹帯はいぬの日に結ぶというごときことは、これだけを考えれば、別に他人に迷惑をかけるわけでもないから、めいめいの勝手のようではあるがかようなことを是認すれば、やがて
改善は頭から (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
いぬの日に里から二ひき白と赤
(新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
以手紙申上てがみをもってもうしあげしかれば先刻大津銚子屋に於て御面会の折柄おりから何等の遺恨候てか満座の中にて存外の御過言ごかごん其の儘には捨置難く依之これによって明晩いぬ中刻ちゅうこく小原山に於て再応さいおう承わりたく候間く/\御覚悟候て右時刻無遅滞ちたいなく御出おい有之度これありたく此段申進もうししんじ候御返答可有之これあるべく候也
明日をも待たないで——今夜のいぬの刻というにわかな指定をしてやったのは、伝七郎もそれがよいと考えたし、親族や門下の者も
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸ひこの火も室町小路こうじにて止まりました。さうさう、松王様はその夕刻、おつつけいぬの刻ほどにひよつくりお見えになり、わたくしがおうらみを申すと
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
都のてらでらの鐘がいぬの刻(午後八時)を告げるのを待ち侘びて、千枝太郎は土御門つちみかどの屋敷を忍んで出ると、八月九日の月は霜を置いたように彼の袖を白く照らした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伝吉の倉井村へはいったのはいぬこくを少し過ぎた頃だった。これは邪魔じゃまのはいらないためにわざと夜を選んだからである。伝吉は夜寒よさむ田舎道いなかみちを山のかげにある地蔵堂へ行った。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見分の役人はいぬの上刻に引き上げた。見分が済んで、鵜殿吉之丞から西丸目附松本助之丞へ、酒井家留守居庄野慈父右衛門しょうのじふえもんから酒井家目附へ、酒井家から用番大久保加賀守忠真かがのかみただざねへ届けた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あとの笑い声は、折柄の濃いいぬの刻の暗黒に、潮鳴りのように消えて行った。
また、犬が吠えつくときに、犬伏せと申して、親指を犬と立て、これを伏していぬうしとらと数えて、寅に当たる小指をもって戌(すなわち親指)を押すと、犬が吠えるのをやめると申します。
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「明日はいぬで仏滅で、やぶるという日だ。祝言には一番嫌われる」
取結とりむすばせける夫より夫婦なかむつましく暮しけるが幾程いくほどもなく妻は懷妊くわいにんなし嘉傳次はほか家業なりはひもなき事なれば手跡しゆせきの指南なしかたは膏藥かうやくなどねりうりける月日早くも押移おしうつ十月とつき滿みちて頃は寶永二年いぬ三月十五日のこく安産あんざんし玉の如き男子出生しゆつしやうしける嘉傳次夫婦がよろこび大方ならずほどなく七夜しちやにも成りければ名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今し方、花頂山の寺々から、ちょうどいぬの刻——五ツの鐘がなりわたった。雪の夜のせいか今夜に限って、鐘の音ははらわたに沁みるほど冴えて聞えた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はただ身軽に扮装いでたつだけのことにして、いぬこくを過ぎる頃から城下の村へ忍んで行くと、おあつらえむきの暗い夜で、今にも雨を運んで来そうな生温なまぬるい南風が彼らの頬をなでて通った。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「明日はいぬ佛滅ぶつめつで、やぶるといふ日だ。祝言には一番嫌はれる」
あれは確かにいぬの刻であった。そうすると、約束の戌の下刻は、もうやがて迫っているところだが——と思う。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高輪たかなわまで燃えぬけて、夜のいぬの刻(午後八時)を過ぎる頃にようよう鎮まった。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
などと一同をよろこばせ、また呉々くれぐれも念を押して町へ帰って行った。それがよいいぬこくころだったのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の宵はまだいぬの刻(午後八時)をすぎて間もないのに、山科やましなの村は明かるい月の下に眠っていた。どこのいえからも灯のかげは洩れていなかった。大きい柿の木の下に藻は立ちどまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蜂須賀七内をはじめ、岐阜ぎふに入り込んでいる乱波らっぱの衆が、いぬ下刻げこくに集まることになっている場所だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃の五月雨に水嵩増して、ドンドンドウドウと鳴る音物すごく、して大雨の夜であるから、水の音と雨の音の外には物の音も聞えず、往来ゆききも絶えたるいぬの刻頃、一寸先も見え分かぬ闇を辿って
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると、いぬの下刻(九時過)墨のように広間で沈んでいた諸士の顔に、ぼっと、灯の色がさわいで
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「母は六十で、いぬ年の生まれでございます」と、半七は答えた。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
椿ヶ浦の船頭、よく申した。そちの申すに従って、やはり今日のいぬこく(午後八時)にここを
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして目ざす木之本に着いたのは、まさにいぬこく(午後八時)——夜なお宵であった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風雨のいぬこくといえば、海上はさだめし、うるしのごとき闇と白浪だったであろう。むろを出て、室のひがし杓子しゃくしうらでいちど休んだ。大小の五千そうの船影が船陣をととのえていたのである。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは十一月七日の夜、いぬの刻とおぼしき頃だったとある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「耳をすな。もう、いぬ下刻げこくは過ぎているぞッ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、いぬ下刻げこく(午後九時頃)ごろ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)