鳴子なるこ)” の例文
さっさと、部屋を出て、介三郎はうろたえるお次より先に、ひとり玄関へ去ったかと思うと、もう庭の闇で、門の鳴子なるこが鳴っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一つ、そこに下っている綱を引っ張ってみて下さい。それで鳴る鳴子なるこ親爺おやじの方にも娘の方にも、両方の室にあるのですから。」
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鳴子なるこ案山子かかしの立っているあたりから折々ぱっと小鳥の飛立つごとに、稲葉にうずもれた畦道あぜみちから駕籠かごを急がす往来ゆききの人の姿が現れて来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何百年かわからない古襖ふるぶすまの正面、板ののようなゆか背負しょって、大胡坐おおあぐらで控えたのは、何と、鳴子なるこわたし仁王立におうだちで越した抜群ばつぐんなその親仁おやじで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
静岡県などではこの事をダオイといっている。小鳥は日中だけだから比較的楽だが、それでも鳴子なるこを時々の風にまかせていてはいられない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
工場の天井にはすずめおどしの鳴子なるこが渡してあって、疲れた女工の眠気をさますために、監督がヒモをひいて鳴らすのだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ある午後、粉飾せる死体のそばで、疲れ切って泥の様に眠っていた柾木は、婆やが土蔵の入口の所で引いている、呼鈴よびりん代りの鳴子なるこの音に目を覚ました。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると、こちらの農夫も、鳴子なるこという因を田の上に釣り下げ、縄をひくという縁によって、からんからんと鳴らせて雀を追払わんとするのが果であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山の田に百姓の鳴らす鳴子なるこの音にも逃げずに、黄になった稲の中でく声にもうれいがあるようであった。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
物みなそうそうと黒く濡れそびれたなかに、鳴子なるこ案山子かかしが、いまにも倒れそうに危うく立っている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その他鳴子なるこは、二之丸、飯尾いいおの出丸にも兵をくばり、守備と反撃の体勢がみるまにととのった。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つづいて一ヵ所の陥し穽で鳴子なるこの音がきこえた。素破すわこそと彼等は一度そこへ駈けあつまって、用意のたいまつに火をともして窺うと、穴の底に落ちているのは人であった。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
立ち続く峰々はいちある里の空を隠して、争い落つる滝の千筋ちすじはさながら銀糸を振り乱しぬ。北は見渡す限り目もはるに、鹿垣ししがききびしく鳴子なるこは遠く連なりて、山田の秋も忙がしげなり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
蝙蝠冠兵衛にねらわれると知って、屋敷の内外に鳴子なるこを張り渡した上、幾つも幾つもわなを仕掛けて、苦もなく忍び込んだ巨盗冠兵衛を生捕りにし、番頭で用心棒を兼ねた伝六という男が
代匠記では鹿鳴間沈カナルマシヅミで、鹿の鳴いて来る間に屏息へいそくして待っている意に取ったが、或は、「か鳴る間しづみ」で、わなに動物がかかって音立てること、鳴子なるこのような装置でその音響を知ることで
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すずめからすを相手に、「おれはお人間さまだぞ。近寄って大事な稲を食うと、からき目にあわせてやるぞ」と威張ったが、雀の方では、二三度は鳴子なるこというトーキー式演出に驚かされたが、早くも
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鳴子なるこを馬鹿にした群雀むらすずめ案山子かかし周囲まわりを飛び廻ッて、辛苦の粒々をほじっている,遠くには森がちらほら散ッて見えるが、その蔭から農家の屋根が静かに野良をながめている,へびのようなる畑中の小径こみち
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
六蔵は駈けて行つて鳴子なるこの綱を引つ張つた
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
鳴子なるこの音がしてからすがぱっと飛んだ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
露ぬれて鳴子なるこの縄や一たぐり 陽和
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
一兵がその鳴子なるこを引くと、次の兵から次の兵へ鳴子を伝え、電瞬の間に、(魏の襲撃あり)——は蜀軍のうちへ予報されていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おなじやうに吹通ふきとおしの、裏は、川筋を一つ向うに、夜中は尾長猿おながざるが、キツキと鳴き、カラ/\カラと安達あだちはら鳴子なるこのやうな、黄金蛇こがねへびの声がする。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
北斎ほくさいなどの読み本の挿画には、田舎の豊饒ほうじょうを写し出そうとすると、きまって鳴子なるこ頓著とんじゃくせぬらしい雀の大群が描いてある。
谷中はわたくし風に鳴子なるこかな ウ白
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
おなじやうに吹通ふきとほしの、うらは、川筋かはすぢひとむかうに、夜中よなか尾長猿をながざるが、キツキとき、カラ/\カラと安達あだちはら鳴子なるこのやうな、黄金蛇こがねへびこゑがする。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かねて、警戒のため設けておいた鳴子なるこが、水欄の辺で、とつぜん魔の笑いみたいにカラカラと音を立てたからだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから鳴子なるこを繩の中程に掛けて、風で自然に鳴るようにしてある他に、片隅にはかけひで山水を引いて来て、それが自然にブリキの罐を叩くようにもしてある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
岩淵をこちらに見て、大方おおかた跣足はだしでいたでしょう、すたすた五里も十里も辿たどったつもりで、正午ひる頃に着いたのが、鳴子なるこわたし
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烈しい水圧と共に、すぐ胸や足をさえぎるものがあった。河中へ縦横に張りめぐらしてある荒縄だった。縄には無数の鈴が鳴子なるこのように結びつけてある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
案山子の人形なども同じことで、半日も見ていればこれが人間でないことは鳥にもわかる。雀なども引板ひきいた鳴子なるこには驚くが案山子の頭には折々は来てとまるかも知れない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ガラガラと、階下したの入口に懸けてある鳴子なるこが鳴った。——はっと、皆が声をのんで眸を澄ましていると、梯子の下を覗き込んでいた小野寺幸右衛門が
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田圃たんぼには赤蜻蛉あかとんぼ案山子かゝし鳴子なるこなどいづれも風情ふぜいなり。てんうらゝかにしてその幽靈坂いうれいざか樹立こだちなかとりこゑす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なアにむこが手前と同職でござりまして、当節は鳴子なるこへ稼ぎにまいっていて、留守がないとってことわったのでござりますが、どうでも来てくれと申すのであアして行きました。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
両側の竹藪で、がらがらと、鳴子なるこが揺れた。しまったと、後ろへ跳び、元の道へ、走ろうとすると
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高坂はかえって唯々いいとして、あたかも神につかうるが如く、左に菊を折り、右に牡丹ぼたんを折り、前に桔梗ききょうを摘み、うしろに朝顔を手繰たぐって、再び、鈴見すずみの橋、鳴子なるこわたしなわての夕立、黒婆くろばば生豆腐なまどうふ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳴子なるこが鳴っている。柴門もんの鳴子ががたがた鳴っている。たれか来たのだろう。開けてやれ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳴子なるこ引板ひたも、半ば——これがためのそなえだと思う。むかしのものがたりにも、年月としつきる間には、おなじ背戸せどに、孫もひこむらがるはずだし、第一椋鳥むくどりねぐらを賭けて戦う時の、雀の軍勢を思いたい。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見届けながら、空しく逃げ降りてくる奴があるか。合図鳴子なるこは何のために備えてあると思うのじゃ。うろたえ者め! 早く鳴子を引いてふもとへ合図をしろ! 早く引けッ、鳴子をッ
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〽風に鳴子なるこの音高く
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏門の鳴子なるこを聞いたからである。客が客をはばかるにしては、その眼はすこしけわしすぎる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)