雑巾ぞうきん)” の例文
旧字:雜巾
赤緒あかお下駄げたと云えば、馬糞ばふんのようにチビたやつをはいている。だが、雑巾ぞうきんをよくあててあるらしく古びた割合に木目がきとおっていた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そこでヤカンとコップを持ち帰って真水をみたしてきたが、そのときバケツと雑巾ぞうきんも持ってきて、汚れたところをキレイにふいた。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
床を洗うのに女は膝をついて、両手でこするようなことをしないで、立った儘手を床につけ、歩きながら雑巾ぞうきんを前後させる(図35)。
「そうかえ、峰田で借りて来たのかえ……。ほんとうにたいへんだったねえ」こう言って、雑巾ぞうきんを勝手から持って来ようとすると
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あれ以来、おくさんもまたひと役かって、四年生五人の裁縫さいほうをうけもっていたのだ。しかし、雑巾ぞうきんさしの裁縫はちっとも苦労ではなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
赤いたすきを十文字に掛けて、あがくちの板縁に雑巾ぞうきんを掛けている十五六の女中が雑巾の手を留めて、「どなたのところへいらっしゃるの」と問うた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
思えば結構尽けっこうづくめの御暮です。私は洋燈ランプの下で雑巾ぞうきんを刺し初めると、柏木のことが眼前めのまえに浮いて来て、毎晩癖のようになりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして雑巾ぞうきん切れでもひッかかったように、しばらくの間——二十分もそのままに吊下げられている。それから下がって行った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
母は慌ててそれをツケギですくい取るやら、そのあとを雑巾ぞうきんで拭くやら(恐らく父に内証にするため、大急ぎで)していたが
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
けっして割のわるい話ではない——と、結局、彼等は乾いた雑巾ぞうきんを絞るようにして、二百円の金を工面せざるを得なかった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
堀尾茂助も云い、家臣たちが、側から叱咤しったしたが、それでもなお、彼は雑巾ぞうきんのように、べたと、顔を伏せているきりだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊下に雑巾ぞうきんがけをしていた年増の方の女中が、手を休めて手擦りにもたれながら、芳太郎と何やら話しているところであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから、今度は、雑巾ぞうきんとバケツとを持ってくる。火でも消すように暖炉へ水をかける。寝具をふるう。そして、忙しそうに、訴えるように——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
三丁目で、こんな店も銀座通りにあるかと思うような、ちょっとした小店で、眉毛まゆげったおかみさんが、露地口ろじぐちの戸の腰に雑巾ぞうきんをかけていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もう着換えのすんだ慎太郎は、梯子の上り口にたたずんでいた。そこから見える台所のさきには、美津みつが裾を端折はしょったまま、雑巾ぞうきんか何かかけている。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
作は時ならない払塵はたきの音を聞きつけて、梯子段はしごだんから銀杏返いちょうがえしの頭を出した。僕は彼女に書架の一部を雑巾ぞうきんで拭いてもらった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雑巾ぞうきんがけを十分にして、つねに縁側や台をきれいにするためには、まず雑巾の数から考えてきめておくことが大切です。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
女はそれを見ると、ぬれた雑巾ぞうきんでいちいち拭きとってしまうと、また坐って毎夜のように壁や障子を見つめたのである。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
水をんだり、火を起したり、雑巾ぞうきんがけをしたり、遠い所へお使いに行ったり、いろいろの事をしなければならない。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、それは家のなかの掃除だけで、ほうき雑巾ぞうきんを持っていない時は、女はただぼんやりと部屋のまん中に坐っていた。
君江は自分の事から起った騒ぎに拠所よんどころなく、雑巾ぞうきんを持って来て袂の先を口にくわえながら、テーブルを拭いているうち、新しく上って来た二、三人づれの客。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
台所から雑巾ぞうきんを持って来て、お君はお絹の足を綺麗に拭いてやって、六畳の寝所ねどこの方へいたわりながら連れ込んだ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仁右衛門はだらんと下げた右手に斧をぶらさげたまま、妻は雑巾ぞうきんのように汚い布巾ふきんを胸の所に押しあてたまま、はばかるように顔を見合せて突立っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
箒と払塵はたき雑巾ぞうきんとを持った女中が、慌てて駈けてきた。周平は長く廊下に待たせられた。掃除がすんで室にはいったが、先刻の黴臭い匂いが鼻についていた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女は、そのあとを追って、死ぬよりほかはないわ、と呟いて、わが身が雑巾ぞうきんのように思われたそうである。
あさましきもの (新字新仮名) / 太宰治(著)
爺さんは、むっつりと、苦虫を噛みつぶしたような面構えで、炉傍ろばたに煙草をかしていた。弟の庄吾は、婆さんの手伝いで、尻端折しりはしょりになって雑巾ぞうきんけだった。
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
気の利いた女中が掃除の済んだ跡で、飛石に雑巾ぞうきんをかけましたら大層喜ばれましたので、それから何か母の機嫌をそこなうと、すぐ飛石洗いをすると笑われました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
五つそこそこくらいの女の子が、雑巾ぞうきんみたいなびしょぬれのぼろ着物を着て、震えながら泣いているのだ。
そしてじっさいオツベルは、そいつで上手に腹をへらし、ひるめしどきには、六寸ぐらいのビフテキだの、雑巾ぞうきんほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
姉はこんな日でなくては家の掃除も充分にできないといって、がたひち音をさせ、家のすみずみをぐるぐる雑巾ぞうきんがけをする。丹精な人は掃除にまで力を入れるのだ。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いつ見ても、かたわらには長柄の雑巾ぞうきんを置き、しかもそれが使われた痕はどこにも見あたらないのだ。
雑巾ぞうきんがけをするだけのことですが、そのうちに、寺侍たちが、いつか米友の槍の達人であることを知って、今では折々その師範役を兼ねているような有様ですから
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちりを廊下にき出すと、かれはバケツに水をんで来て、寝間ねまと事務室とに雑巾ぞうきんがけをはじめた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
年増の手にした雑巾ぞうきんであろうあたたかきれ双足りょうあしに来た。年増の香油こうゆの匂いが気もちよく鼻にしみた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのかわりに木綿布の古切ふるぎれを何枚も合わせて、それを雑巾ぞうきんよりも細かく堅く刺して、麻布のかわりに上覆うわおおいに着ていると見えて、私も羽後うご由利ゆり郡の山村をあるいた時に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうするとその答えは「雑巾ぞうきん」であります。これははなはだわからない。私はわからなかったのでありますが「ふけばふくほどよごれる物は何か」というと「雑巾」であります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その壜とかコップとか、或いは水のこぼれをぬぐった雑巾ぞうきんとかいうものは残っていないかしら
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その朝は早々起きて物置の二階から祭壇を下ろしすすを払い雑巾ぞうきんをかけて壇を組みたてようとすると、さて板がそりかえっていてなかなか思うようにならぬのをようやくたたき込む。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その翌日、例になく早起きをした二郎が、庭を散歩しながら、何気なく玄関の前まで来かかると、音吉爺さんが、西洋館の入口の大扉を、せっせと雑巾ぞうきんで拭いているのに出合った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「……当りまえに此方側こっちがわから飲まずに、斯う口を開いて向う側へ喰いつこうとするから、お茶は皆胸へこぼれて……あつつ! これはしまった。お鶴や、雑巾ぞうきん、じゃない、布巾ふきんだ布巾だ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、伯母は、ただ一寸ちょっと雑巾ぞうきんで前を隠したまま、鄭重ていちょうなお辞儀をしたきり、少しも悪びれた様子を示さなかった。またこの伯母は、主人がたまに帰って来てもがみがみしかりつけてばかりいた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
梅雨中とは云いながら、此十日余思わしい日の目も見ず、たたみを拭くと新しい雑巾ぞうきんかびで真黒になった。今日はからりと霽れて、よろこばしい日光のになった。待ちかねた様にせみ高音たかねをあげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蛇のごとく竜のごとき怪物のごとき斑痕はんこんがあるを見たが、生徒が雑巾ぞうきん掛けするときに、おもしろ半分にその雑巾を天井に投げつけた所が、かくのごとく怪物の形を印出するようになったそうだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
(戸を開き、姉と学士とをいだしやり、自分も続いて退場。○舞台は一二分間空虚になりおる。さて外より戸を開け、先にモデル娘、続いてウェエベルのかみさん、ほうき、バケツ、雑巾ぞうきんを持ち、登場。)
しかしながら如何に静観独居を楽しむ人たちが、雑巾ぞうきんやぼろ切れを以て潜航艇の穴を押えつけても、大海の圧力というものは大したものである。とうとう穴の内部は動くもので充満してしまった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
おかみさんだけしか知らないで、それも、まるで家の雑巾ぞうきんと同様に無趣味にかわかし上げて、ね、若いうちから、決して女郎買いなどしないで、その代わり、小倉さんは航海学を読んでるでしょう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
下女は下女でうすのような尻を振立ふりたてて縁側えんがわ雑巾ぞうきんがけしている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
バケツと雑巾ぞうきん持ってね。押入れの虫干しするんだから。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
いえ、それには及びませぬ、雑巾ぞうきんをお貸し下さいまし。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑巾ぞうきんがけは、伝馬番てんまばんの松本重雄。三十一歳。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)