おもん)” の例文
それから、昔は西洋でも日本でも先生各自の流派というものが非常におもんじられ、心そのものよりも画法というものを重大に考えた。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
第三に自己の金力を示そうと願うなら、それにともなう責任をおもんじなければならないという事。つまりこの三カ条に帰着するのであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は伊太利イタリーを愛して己れの墳墓にミランの人なにがしと刻せしめた。現實をおもんじた彼の孔子すら道行はれずば舟に乘つて去らうと云つたでは無いか。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
理において彼は恩愛の情に切なる者あり。「処女たる事」(Jungfräulichkeit)をおもんずべきものなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
そうしてお国をおもんじると同程度で他府県人を排斥はいせきします。余所よそものという一種の軽侮を含んだ言葉が出来ています。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しばらくしてめ、慶応義塾の別科を修め、明治十二年に『新潟新聞』の主筆になって、一時東北政論家の間におもんぜられたが、その年八月十二日に虎列拉コレラを病んで歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
春枝夫人はるえふじんにすぐれて慈愛じひめるひと日出雄少年ひでをせうねん彼等かれらあひだ此上こよなくめでおもんせられてつたので、たれとて袂別わかれをしまぬものはない、しか主人しゆじん濱島はまじま東洋とうやう豪傑がうけつふう
甲谷はここまで来ると、再び彼がそのようにも負かされ続けた外国人たちの礼譲を、支那人ではないということを示さんがためばかりにさえも、おもんじなければならぬのだった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ここに方便を申せば、おきみさんは名誉をおもんぜられ候ゆゑ、名誉より説くべきに候はんか。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
... おもんじなければならん。子が親に向っても妻が良人おっとに向って心の礼がなくっては如何に形ばかり神妙にしても役に立たん」お登和「それで大原さんは今何をしていらっしゃいます」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お夏の一諾いちだくおもんぜしめ、火事のあかりの水のほとりで、夢現ゆめうつつの境にいざなった希代の逸物いちもつは、制する者の無きに乗じて、何と思ったか細溝を一跨ひとまたぎに脊伸びをして高々と跨ぎ越して
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ左道さとう惑溺わくできする者は、財をむさぼり、色を好み、福を僥倖ぎょうこうに利し、分を職務に忘れ、そと財をかろんじ、義をおもんずるの仁なく、うち欲にち、身を脩るの行なく、うまれて肉身の奴隷となり
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
しかれども基督教の特徴として世の事業をおもんずるのみならずこれを信ずるものをしてく大事業家たるの聖望せいぼうを起さしむ、カーライルのいわゆる Peasant-saint(農聖人)
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そのいえではいささかの酒宴が催されました。父は今年六十。たとえ事情は何であっても、表向おもてむきいえ嫡子ちゃくしという体面をおもんずるためでしょう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
衛生をおもんずるため、出来る限りかかる不潔を避けようためには県知事様でもお泊りになるべきその土地最上等の旅館ホテルあがっておおいに茶代を奮発せねばならぬ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
世間には立身栄達りっしんえいたつの道を求めるために富豪の養子になったり権家けんか婿むこになったりするものがいくらもある。現在世におもんぜられている知名の人たちの中にもこの例は珍しくない。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
毅堂は江戸下谷にあった頃より武芸をおもんじ門人塾生には読書のかたわら武芸を練習させた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はいっちまたにさまよって車でも引こうか。いや、私は余りに責任をおもんじている。客を載せて走る間、私ははたして完全にその職責をつくす事が出来るだろうか。下男となって飯をこうか。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ケダシ賀寿ノえんヲ設ケテ以テソノ窮ヲ救ヘト。先生曰ク、中興以後世ト疎濶そかつス。彼ノ輩名利ニ奔走ス。我ガ唾棄だきスル所。今ムシロ餓死スルモあわれミヲ儕輩せいはいハズト。晩年尤モ道徳ヲおもんズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)