あがな)” の例文
さかうへ煙草屋たばこやにて北八きたはちたしところのパイレートをあがなふ。勿論もちろん身錢みぜになり。舶來はくらい煙草たばこ此邊このへんにはいまれあり。たゞしめつてあじはひならず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なお私は両脚の代償として、ねて珠子から望まれていたとおりの五ヶ年若き青春と代りの脚一組とをあがない、その場で移植して貰った。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを売って栄爵をあがない、それに依って華殿美食の生を、今日七十六歳の高齢まで保ち来たれる一怪物。正にそれは汝王朗ではないか。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『実に結構なものじゃの。東京では見たことも聞いたこともない。早速あがない求めて屋敷へ送るがよいぞ』と大殿様がおおせになりました。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
雑誌に載った時は、読みたいとも思わなかったのが、単行本となって、あらわれて、はじめて一本をあがなって、読むということがあります。
書を愛して書を持たず (新字新仮名) / 小川未明(著)
余は悪書を作りその代金もて広く良書をあがなうものなりなどと、さような気障なせりふを言って万巻の書を買い集めはしやせんが
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正しい時代は常に「美」と「れん」との一致を示すであろう。美が高き代価においてのみあがなわれると思うのは、全くの錯誤である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
古参の編輯同人の誰もが着てゐるので田舎ぽつと出の私は体面上是非着るべきものかと思つて月賦のやりくりであがなつたものだが
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
分娩ぶんべんの日の輝かしい光栄を苦痛であがなう女のうちに、人知れず身を犠牲にしてだれからも知られていない者のうちに、無限なるものがある。
問 予の全集は三百年ののち、——すなわち著作権の失われたる後、万人ばんにんあがなうところとなるべし。予の同棲どうせいせる女友だちは如何?
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここにただ肉細の拓本とだけで片附けてしまっているが、その何人の原筆になるのだかは主膳もよく心得ずにあがなきたったものであります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
支那国にては戦争利なく国人数千戦死し、かつ数府を侵掠しんりゃく敗壊せらるるのみならず、数百万金を出して火政の費をあがなうに至れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
三人が東京にちゃくした時毅堂は既に皀莢阪下の官邸を政府に返還し、下谷竹町四番地に地所家屋をあがない門生とともに移り住んでいたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
千金をおしまずして奇玩きがんをこれあがなうので、董元宰とうげんさいの旧蔵の漢玉章かんぎょくしょう劉海日りゅうかいじつの旧蔵の商金鼎しょうきんていなんというものも、皆杜九如の手に落ちた位である。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
復古政府は血をもってあがないたるこの爵位を予に否認すれども、予が子はこれを取りこれを用うべし。もとより予が子はそれに価するなるべし。
何千両、何万両となくバラ撒いた金が、人間の真情まであがない得るものと、孫右衛門は思い込んで疑いもしなかったのです。
わたくしは、勝利を確信しています。が、それは実質の勝利で、形からえば、妾は金のために荘田にあがなわれる女奴隷おんなどれいと、等しいものかも知れません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが板木を売つて、技をり口を糊してゐる京水をしてあがなはしめた。京水憤慨の状は自記の数句の中にもあらはれてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これまで強大な諸大名が外国からあがない入れた軍船、運送船、鉄砲、弾薬の類はおびただしい額に上り、その代金は全部直ちに支払われるはずもなく
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「はっ、恐れながら刀は黄金をもってあがないまするもの、君命を果すことは黄金に代え難きものと存じましたゆえ!」
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこは前によく野の菜の物をあがなった、かくれた一軒家であったから網代車のすだれかき上げて、百姓の女に行き会った。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
我の愛か、死をもておびやかすとも得て屈すべからず。宮が愛か、なにがしみかどかむりを飾れると聞く世界無双ぶそう大金剛石だいこんごうせきをもてあがなはんとすとも、いかでか動し得べき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
祖父はヴォローネシ県の農奴で、やがて自由をあがなってウクライナに移住した。父の代になるとロストフに近いタガンローグに定住して、商家の娘をめとった。
狂犬に咬まれた者少しくまば即座に治る、また難産や疥癬に神効あり、その肉またうまければ人好んであがない食う
たとえ人手に渡さばとて、やがてこの二面の琴は、師の君が同門の人にりてあがなわるることを保証します。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
長次郎等を室堂むろどうに遣り、米味噌その他の必需品をあがなわしめ、吾等は悠々山巓さんてんを南に伝いて、午後二時、雄山。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
おまえは、もし服従がパンであがなわれたものならば、どうして自由が存在し得るか、という考えだったのだ。
今を距ること四十八年前のことなり、二人の日本人留学生によって鬘のあがなわれたることを記憶せざるや。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
経済的に毎日毎日レタスをあがなうことの非を悟った野呂は、ついに野呂菜園のレタスに人肥を使い始めたのです。勿論それを僕に食べさせようという魂胆からです。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
金銭だに納付せば位階は容易に得べき当時の風習をきたなきものに思い、位階は金銭を以てあがなうべきものにあらずとて、死ぬるまで一勾当の身上にて足れりとした。
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
店先ニ腰掛ケテ舊知ノ主人ト挨拶ヲ交シ、中国製ノ最良ノ朱墨一ちょう、小指大ノモノヲ金二千圓デあがなウ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
紙の古きは大正六年はじめて万年筆を使用されし以前にあがなわれしものを偶々たまたま引出して用いられしものと覚しく、墨色は未だ新しくしてこの作の近き頃のものたる事をあかす。
遺稿:01 「遺稿」附記 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あらゆる方面の材料を蒐集しゅうしゅうするにつとめ、余が消費し得るすべての費用をいて参考書をあがなへり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
絵のひとつもあがなうとなると、新しい書画さえ買えば間違いはない、古い物は危険だからとて買わない。こんな手合いが常識人で通るほど、今日は個性のない世の中となっている。
料理一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
是非一本をあがなって再読三読し給え。主婦之友などを読んで、甘藷かんしょの貯蔵法ばかり研究していてはいけない。君はアフタニデスの蓄妾論を読んだことがあるか? 勿論ないだろう。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
最初に西洋料理の道具を買入れる入費や料理の教科書をあがなう位の事は何でもありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
朱印を許した秀吉は、それらの船の持来たした珍奇の器物をあがなって心を喜ばせていた。
私はその時、あがなつた繪雙紙ゑざうしをもつてゐたので差上げたらば、大層よろこばれて、自宅うちにはなかつたので、母が——松崎大尉未亡人が非常によろこび、懷しがつたとお禮を申された。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
起しそれにしてはお紺こそ長崎の者なれば引連れ行きて都合好きこと多からんとついに妾をあがないて長崎に連れ来れり施寧は生れ附き甚だ醜き男にして頭には年に似合ぬ白髪多く妾は彼れを
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
小鼓は熊岡氏の友達が新しくあがなひ取つたものだが、鼓はがなすきがな叩いた方がいゝので、ひまの多い熊岡氏が借りて来て、画にむと、盲滅法に叩いてゐるものだといふ事が判つた。
今日軍艦をあがなひ大砲を購ひ巨額の金を外國に出すも畢竟日本國を固むるに外ならず、されば僅少の金額にて購ひ得べき外國の文學思想抔は續々輸入して日本文學の城壁を固めたく存候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
我は辛く一席をあがなふことを得き。いづれの棧敷さじきにも客滿ちて、暑さは人を壓するやうなり。演劇はまだ始まらぬに、我身は熱せり。きのふけふの事、わがためにはすべて夢の如くなりき。
山間の寂しい小學校にゐた間、俸給の餘剩あまりを積んであがなつて、獨り稽古で勝手な音を出して、夜毎にこれをもてあそんでゐたことが、涙ぐまるゝやうな追憶となつて、乾いた彼れの心をうるほはした。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ウドウドも持っていない位だから、これによって始めてあがなうことの出来る妻をもてる訳がない。たった独りで、島の第一長老ルバックの家の物置小舎の片隅に住み、最も卑しい召使として仕えている。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そこから蘇木そぼく胡椒こしょうの類をあがない取って、これを中朝ちゅうちょうに貢献したという代償物は、いわゆる海肥かいひすなわち宝貝以外にはあったとも思われぬから、それを運んだのもまたこの島の船であったろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今度という今度、廉物やすものではあるが私は腕時計というものを初めてあがなった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これなる馬の代りは、身共がもそッと名馬あがない取ってつかわそうゆえ、もう泣くのはやめい。のう、ほら、早う手を出せ、足りるか足りぬかは知らぬが十両じゃ、遠慮のう受取ったらよかろうぞ
きよしさんのうちゆづるさんにも頼んで一緒に行つて貰つたのです。麹町の通りであがなはれたまりしげるの手へ渡されたのです。しげるは嬉しさに元園町もとぞのちやうの辺りではまりを上へ放り上げながら歩いて居たのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
客の中には焦生を利用して、私腹を肥やそうとする者もあった。珊珊はそんな客は中に入れないようにした。客の方では珊珊を邪魔者にして、金を集めて窈娘ようじょうという妖婦をあがなって焦生に献上した。
虎媛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
本玉ほんたまとかいふ水晶製の眼鏡の価たかきをもいとはで此彼これかれと多くあがなひ求めて掛替々々凌ぐものから(中略、去歳こぞ庚子かのえね即ち天保十一年の)夏に至りては只朦々朧々として細字を書く事ならねばその稿本を
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)