見計みはから)” の例文
最早罪に伏したので、今までは執成とりなすことも出来なかった小芳が、ここぞ、と見計みはからって、初心にも、たもとの先をつまさぐりながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある者は蕃刀をぬき放ち、ある者は鋭利な竹槍を小腋こわきに抱え、息をひそめ、眼を光らせ、頃合いを見計みはからっていたのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
云う事がイクラカ筋立って来た頃を見計みはからって、なだめつかしつしながら色々と事情を聞きただしてみますと……色情倒錯どころの騒ぎではない。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
このマイナイスソースへ野菜を和えてパンへ挟みますがこれは上等のサンドイッチです。野菜は何でも見計みはからいで出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
富豪の人身攻撃から段々に強面こわもての名前を売り出し懐中ふところの暖くなった汐時しおどき見計みはからって妙に紳士らしく上品に構えれば、やがて国会議員にもなれる世の中。
日本服に着換えて、身顫みぶるいをしてようやくわれに帰った頃を見計みはからって婆さんはまた「どうなさいました」と尋ねる。今度は先方も少しは落ついている。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、それよりは軽快なワルツでもやるんだね。そして火星人が少しおちついたところを見計みはからって、外交交渉を始めるんだね。もういい頃合だと思うよ」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頃合を見計みはからって、それを元の枕に差し込むと、ほのかな香気——幽雅で甘美な匂いがゆらゆらと立ち昇って、薄暗い部屋一パイは、夢の国のようになるのでした。
其等は諳誦して忘れない様にして居るが、歌の形をして浮んだ物丈は看護婦さんの居ない間を見計みはからつて良人に鉛筆で書き取つて貰ひ、約束のある新聞雑誌へ送つて居る。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
新「あゝ海苔で、吸物は何か一寸見計みはからって、あとは握鮓がいゝ、おい/\、お酒は、お前いけないねえ、しかし極りが悪いから、沢山は飲みませんが、五勺ごしゃくばかり味醂みりんでも何でも」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
爲難なしがたし依て一先ひとまづ江戸表へ御旅館ごりよくわん修繕しつらひとく動靜やうす見計みはからひ其上にて御下り有て然るべし其あひだには江戸表の御沙汰ごさたも相分り申さんへんおうじて事を計らはざれば成就じやうじゆほど計難はかりがたしといふに然ば江戸表に旅館りよくわん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
店の方に客足の絶える暑い午後の時を見計みはからって交代で寝に来ることを許される小僧達と一緒に、捨吉もそこへ自分の疲れた身体を投出したことは覚えているが、どのくらい眠ったかは知らなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父の男爵は、傍に誰もゐないのを見計みはからうて、囁くやうに訊いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
で、見送人の空いた折を見計みはからつて女史の前に立つた。
品物の入れ加減は大概お見計みはからいでようございますがその中で柿が一番多く入ります。色々な味へ柿の甘味が交ってどんなに美味おいしゅうございましょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
好い加減な頃を見計みはからって宗助は、せんだって話のあった屏風びょうぶをちょっと見せて貰えまいかと、主人に申し出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、やっと盃が絶えた機会を見計みはからって本気に立上ろうとしたところへ、今一度前と違った奇怪な叫び声が聞こえたので、又もペタリと腰をおろしたのであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
翌日僕は研究所内が最もだれきった空気になる午後三時を見計みはからってソッと三階へ上った。ねて目星めぼしをつけて置いた例の本を抜きとると上から三段目の階段へせた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父の男爵だんしゃくは、傍に誰もいないのを見計みはからって、ささやくようにいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
或日彼は誰も宅にいない時を見計みはからって、不細工な布袋竹ほていちくの先へ一枚糸を着けて、えさと共に池の中に投げ込んだら、すぐ糸を引く気味の悪いものに脅かされた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その品々の分量は見計みはからいでようございます。このお料理を原語でジャンボンライスと申します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あるときは水のたまったみぞの中に腰から下をらして何時間でもくちびるの色を変えてすくんでいた。食事は鉄砲を打たない時を見計みはからって、いつでも構わず口中に運んだ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが三十分ばかり煮えた処で玉葱たまねぎか普通の葱を加えますがそれはその時の見計みはからいでいいのです。そうして塩と胡椒こしょうとバターで味をつけて三十分ばかり煮て翌日あくるひまで置きます。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
御祭おまつりの十二時を相図に、世の中の寐鎮ねしづまる頃を見計みはからつてはじまる。参詣さんけい人が長い廊下をまはつて本堂へ帰つてると、何時いつにか幾千本いくせんぼんの蝋燭が一度いちどいてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、待ってる、ここだよ」と圭さんは蝙蝠傘こうもりで、がけの腹をとんとんたたく。碌さんは見当を見計みはからって、ぐしゃりと濡れ薄の上へ腹をつけて恐る恐る首だけをみぞの上へ出して
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「下駄を、よう御揃おそろえなさい。そらここを御覧」と紙燭を差しつける。黒い柱の真中に、土間から五尺ばかりの高さを見計みはからって、半紙を四つ切りにした上へ、何かしたためてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ようやく手のいた頃を見計みはからって、読み落した諸家の短篇物を読んで行くうちに、無名の人の筆に成ったもので、名声のある大家の作と比べて遜色そんしょくのないもの、あるいはある意味から云って
長塚節氏の小説「土」 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれと山嵐は校長と教頭に時間の合間を見計みはからって、嘘のないところを一応説明した。校長と教頭はそうだろう、新聞屋が学校にうらみをいだいて、あんな記事をことさらにかかげたんだろうと論断した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)