蓊鬱おううつ)” の例文
月桂樹の老木が円天井を衝かんばかりに蓊鬱おううつとした葉を繁らせて、その翠緑の色を傍の青苔の蒸した浴池が水に浸しているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
昼見るといつも天主閣は、蓊鬱おううつとした松の間に三層さんぞう白壁しらかべを畳みながら、そのり返った家根の空へ無数のからすをばらいている。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
沖合に出て、左手の蓊鬱おううつと繁茂している中ノ島の大樹と、右手に望まれる緑屋の二階座敷とを見くらべながら、奇妙な感慨に浸っていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
曾て「秩父の奥山」なる記事を書いた時、私は今日の秩父山が、渓流の澄澈ちょうてつと、森林の蓊鬱おううつと景趣の幽邃ゆうすいとに於て、其権威の絶頂にあるものであるとうた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
比叡山ひえいざん延暦寺えんりやくじの、今、私の坐つてゐる宿院の二階の座敷の東の窓の机につて遠く眼を放つてゐると、老杉蓊鬱おううつたる尾峰の彼方に琵琶湖の水が古鏡の表の如く
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
昨今三千円やそこらの金を無理算段して神社の設備大いに挙がると称する諸社を見るに、すでに神林の蓊鬱おううつたるなきゆえ、古えを忍ぶの神威を感ずのという念毛頭起こらず。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
沼は、不忍しのばずの池を、そのなかばにしたと思えばい。ただ周囲に蓊鬱おううつとして、樹が茂って暗い。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振り返ると、おお何と典麗てんれいな白帝城であろう。蓊鬱おううつたる、いつも目に親しんで来たあの例の丘陵の上の、何と閑雅かんがいらか、白い楼閣ろうかく、この下手しもてから観るこの眺めこそは絶勝であろう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
劫初ごうしょ以来人の足跡つかぬ白雲落日の山、千古斧入らぬ蓊鬱おううつの大森林、広漠こうばくとしてロシアの田園をしのばしむる大原野、魚族群って白く泡立つ無限の海、ああこの大陸的な未開の天地は
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
もしそれ山花野艸やそうに至りてはこれに異なり、その香馥郁ふくいくとしてその色蓊鬱おううつたり。隻弁単葉といへども皆ことごとく霊活ならざるなし。自由の人におけるその貴ぶべきことけだしかくの如し。
南越餓鬼田圃あたりの樹草や種池棒小屋乗越辺の疎林さえなんと蓊鬱おううつをくわえたことか、またきくところによれば、高瀬奥では水電の導水路(?)のコンクリートがくさり、木管にかえたとか。
山岳浄土 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
蓊鬱おううつたる森林や、どこともしれぬ森の奥にたまたまみつけた冷たい泉などが、どうして彼らにあれほどの意味を持ちうるのだろう? たとえば、その泉を見つけたのはもう一昨年のことなのだが
天地開闢以來てんちかいびやくいらいいま斧鉞ふいつらざる大森林だいしんりんいたところ蓊鬱おううつとしてる。印度河いんどかは恒河こうか濁流だくりう澎洋ほうやうとしてはてらず、この偉大ゐだいなる大自然たいしぜんうちには、なに非常ひぜうおそるべきものがひそんでるとかんがへさせる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
中には我等の三囲みかかえ四囲よかかえとうの老樹多きに驚けり。山頂に登り、近くは斗満※別、遠くは阿寒山を眺め、近き渓々たにたには緑葉樹の蓊鬱おううつたるを望み、西に斗満の蓊鬱たるを望み、近き西には斗満川を眺めたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
幾つかの人家が点綴てんていする! 山と山との間、蓊鬱おううつたる林間には雪を被った高山が雲をまとうてそびえ立ち、なんという大いなる展望であり、荘厳さであったろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その上不思議な事にこの画家は、蓊鬱おううつたる草木を描きながら、一刷毛ひとはけも緑の色を使っていない。あし白楊ポプラア無花果いちじゅくいろどるものは、どこを見ても濁った黄色きいろである。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
想うに今日の秩父は、渓流の澄澈ちょうてつと森林の蓊鬱おううつと景趣の幽邃ゆうすいとに於て、其権威の絶頂にあるものである。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
まことに白帝城はくていじょうは老樹蓊鬱おううつたる丘陵の上に現れて粉壁ふんへき鮮明である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
街灯の影も疎らに蓊鬱おううつたる植込みを通して、青白い月のみが路上に淡い光を投げているのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)