聡明そうめい)” の例文
迦羅奢は、常の聡明そうめいな自分にかえった。ふだんは、良人は気短で気のあらい人と考えていたのが、今はあべこべにあることに気づいた。
「変なことではないか、聡明そうめいな方のように想像していたのに、こんなことでは幼稚なところの抜けぬ方と思うほかはないではないか」
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
無頓着むとんじゃくな者には勝手にその網の目をくぐらせるが、疑い深い者、用心深い者、聡明そうめいな者にたいしては、なかなか取り逃がすまいとする。
憎いと思いながら、聡明そうめいな忠利はなぜ弥一右衛門がそうなったかと回想してみて、それは自分がしむけたのだということに気がついた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてそのためには、人の心理を洞察どうさつする聡明そうめい智慧ちえと、絶えず同化しようと努めるところの、献身的な意志と努力が必要である。
その場合にそれが平和的な改革の方法で行われるか、それとも革命でなければならぬかは、主として支配階級の聡明そうめいさと順応性による。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
右衛門は如何に聡明そうめい怜悧れいりな女でも、矢張り女だから、忌々いまいましくもあり、勘忍もしがたいから、定石どおり焼き立てたにちがい無い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼ほどの冷静なかつ聡明そうめいな人にして全く可笑おかしな話であるが、そこで彼は自分の恥ずべき空想が私に見破られたことを焦慮して
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女の顔は、昨日より一層魅力みりょくが増して見えた。目鼻だちが何から何まで、実にほっそりとみがかれて、じつに聡明そうめいで実に可愛かわいらしかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかもそれがきわめて聡明そうめいで繊細なしかたであったので、外見上はただちょっとした助言を添えているように見えながら、実は
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
あの悧巧りこう聡明そうめいな夫人が、こんな露骨な趣味の悪い技巧をろうする訳はない! やっぱり、夫人の本心から出た自然の書き散しに違いない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……このニュアンスを、まんまと捕えて自家薬籠中のものとしたマンスフィールドの心には、非常に聡明そうめいな女性が住んでいたのに違いない。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
この若く美しく聡明そうめいな娘さんに、友達以上のなつかしさを感じてい、それが日一日と深くなって行くのをどうすることも出来ない状態であった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日本人は聡明そうめいだから、こんな二十四孝を、まさか本気で孝行の手本なんかにしてはいないでしょう。あなたは、お世辞を言っているのです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
主題を意識の上の事とするから、そう言った作物となって現れもし、読者たちにも極めて単純にして、聡明そうめいなるに似た印象を与えるのである。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
太子は比類なき聡明そうめいな知性を持たせられたと同時に極まりなき美の感性に富ませられ、又実に即決即断の明快な技術的手腕をも兼備させられた。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ただ記述があまりに簡略に過ぎてわかりにくい点が多いことと思われるが、そういう点についてはどうか聡明そうめいなる読者の推読をわずらわしたい。
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人間のあじわい得るあらゆる幸福は味って置きたいという、そして大和魂やまとだましいというものを認め得ない処の近代的にして聡明そうめいな絵描きがあったとしたら
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
夫人に津田の手前があるように、お延にも津田におく気兼きがねがあったので、それが真向まともに双方を了解できる聡明そうめいな彼の頭を曇らせる原因になった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも同時に、そんなあどけない様子でいながら、彼には彼女が年に似合わず非常に聡明そうめいな、頭の進んだ女性に見えた。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ルージンはこの釈明を信じるだけの聡明そうめいさを持っていた。もっとも、彼はもう二分もたったら、帰ろうと決心したので。
ステージの淋しさは気も滅入めいるばかりであった。聡明そうめいなエステルハツィ侯はハイドンの諷諌ふうかんの意を悟って、楽員に暇をやったことは言うまでもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
また画家K氏のT誌に寄せた文章にれば、麻川氏はその晩年の日記に葉子を氏の知れる婦人のなかの誰より懐しく聡明そうめいなる者としてさえ書いて居る。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは聡明そうめいな彼にとって、当然すぎるほど当然なことである、が、不思議なことには逆にその評価が彼の好意に影響するということもまたほとんどない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫人の聡明そうめいで愛情にみちた眼に出っくわすと、おどろきとも喜びともつかぬ表情で急に生き生きとなるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
君はもとよりも四七聡明そうめいの聞えましませば、四八王道わうだうのことわりはあきらめさせ給ふ。こころみにたづまうすべし。
その他種々な性質のほかにテナルディエはまた、注意深く、見通しがきき、場合によっては無口だったり饒舌じょうぜつだったりして、いつもきわめて聡明そうめいだった。
一人の聡明そうめいそうな怪物が、悟浄に向かい、真面目まじめくさって言うた。「真理とはなんぞや?」そしてかれの返辞をも待たず、嘲笑ちょうしょうを口辺に浮かべて大胯おおまたに歩み去った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
深沈しんちん厚重こうちょうれ第一等の資質ししつ磊落らいらく雄豪ゆうごうは是れ第二等の資質、聡明そうめい才弁さいべんは是れ第三等の資質なり」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なぜそんな事をするかと言いますに、聡明そうめいな法王がその位に即きますと近臣の者がうまい汁が吸えない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼は若々しく、聡明そうめいでしかも寛大で、勇気にあふれ、人が青年はかくあれかしと思うすべてをそなえていた。彼の態度は裁判をうけているあいだも崇高で大胆だった。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
この場合に限らず彼は元来直面した現実の意味をその時即座に理解するだけの聡明そうめいを欠いていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なあにAは彼自身、良友ぶつて忠告をしたいのに、彼自身の聡明そうめいさが、それを自身で知つてゐるために、わざと此忠告は此方こつちの為でなく、彼自身のためだと云つてゐるのだ。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
聡明そうめいに過ぐるものは自信を欠くと昔からいうが、二葉亭の如きはその適切な一例であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼女が圏外に跳退はねのけられたのではなく、若いおり聡明そうめいであった彼女の頭が、すこし頑迷がんめいになったためではあるまいか、若いうちは皮相な芸でも突きこんでゆこうとする勇気があった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「何という聡明そうめいな女だろう」と、彼はもうすっかり眠けを奪われてしまって、女の言葉の方向の動くがままに、その疲れ切った意識を引きずり回され、血みどろにされるのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
聡明そうめいなるお絹さん! 私の申すこの思想があなたにわからないはずはありません。私がなんであなたを嫌いましょう。あなたと私との間には素質と素質との好き合う力があるようです。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
もっともいつか東京から或る有名な先生と、聡明そうめいをもって鳴るその奥さんとが来られて、私の家を訪ねられたことがあった。話のついでに、新一楽帖しんいちらくちょうと自称している自分の画帖を見せた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
聡明そうめいまゆをあげてうつろな御堂からいまにも立ち現れ給うごとく感じたのであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
聡明そうめいな人には直ちに理解せられる云い方をしてみたのだけれども、それはさておき、近代小説の生成というものは、その昔、物語を書こうとした意志と、日記を書きつけようとした意志とが
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
祖父は聡明そうめいな人ではあったけれど、我の強い嫌いがないわけでもなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
もっとも私は彼の顔を知らなかったのだが、流石に彼は探偵だ、私を見ると、男らしい聡明そうめいそうな顔をニコニコさして、私は木村ですが、私の所へ御出になったのではないか、と尋ねて呉れたのだ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
平素身近に帯ぶることが最も臟品ぞうひんを隠匿するに聡明そうめいな方法と思いついたものでしたから、かように作りを変えて佩用はいようしていたのでしたが、それとて右門の慧眼けいがんのために、はしなくも看破されて
おのが身を世に知れず隠さんために、みずからの聡明そうめいの光を和らげ
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
人生に対して最も聡明そうめいな誠実な態度をとったからである。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
中にはまだ若々しい聡明そうめいおもざしのものも混っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
赤羽君はこの通り、愚鈍ぐどんのような聡明そうめいのような男だ。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
同時に裁決する女が聡明そうめいだからだ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
聡明そうめいな源氏は、不思議な現象であると思ったが、僧都がお話し申し上げたほど明確に秘密を帝がお知りになったとは想像しなかった。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
永楽の時、史に曲筆多し、今いずくにかそのじつを知るを得ん。永楽簒奪さんだつして功を成す、しか聡明そうめい剛毅ごうきまつりごとす甚だ精、補佐ほさまた賢良多し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)