うるわ)” の例文
奥方も、ついにこの説を容れざるを得なくなって、そこで、この一座の評議は、友義と、同情と、犠牲心とを以てうるわしくまとまりました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時、水平線がみるみるふくれ上がって、うるわしいあけぼのの息吹が始まった。波は金色こんじきのうねりを立てて散光を彼女の顔に反射した。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
根元の方にも日の光は漏れて、幹は黒々と、葉は淡きバアントシーナを塗ったように、琥珀こはく色に透明して、極めてうるわしい。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
雪に映ずる初日のうるわしさに加えてわが窓の向うなるセラ大寺の広庭には幾羽の鶴がおもむろに歩みつつ幾声となく叫んで居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
かみうるわしく長くこぼれかからせて、添いいるのならば、さぞ釣り合ってよかろうに、年とった女の自分が髪なども散り乱れて、薄鈍うすにびの喪服をつけて
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ここは農夫の客にめられたりしがようやくきしなり。となりひげうるわしき男あり、あたりをはばからず声高こえたかに物語するを聞くに、二言ふたこと三言みことの中に必ず県庁けんちょうという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そんな小な事件が起って、注意を促してすら、そこに、かつうるわしい福田と、寺のはじめられたを、思い出す者もなかった程、それはそれは、微かな遠い昔であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
うるわしき秋の日で身も軽く、少女おとめは唱歌を歌いながら自分よりか四五歩先をさも愉快そうにねて行く。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
秋の七草を染め出したる京友仙のうるわしきは、ちやうど袷になりもやせむ白地博多に太やかなる赤の一本筋は、ちとあつさり過ぎたれど、いづれ心づくしの品ならぬはなし。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
侍女五 (最もわかし。ひとしく公子の背後に附添う。派手にうるわしき声す)月の灘の桃色の枝珊瑚樹、ついの一株、丈八尺、周囲まわり三抱みかかえの分。一寸の玉三十三粒……雪の真珠、花の真珠。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君が尊敬するわがうるわしの依頼人秋川ひろ子嬢が十七日の日私を訪問した足取りさ」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
其後そののち光輪ごこううるわしく白雲にのっ所々しょしょに見ゆる者あり。ある紳士の拝まれたるは天鵞絨ビロウドの洋服すそ長く着玉いて駄鳥だちょうの羽宝冠にあざやかなりしに、なにがし貴族の見られしは白えりめして錦の御帯おんおび金色こんじき赫奕かくえくたりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うるわしき御機嫌の体を拝し奉り恐悦至極に存じまする」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
カルメルとシャロンのうるわしきとはこれに授けられん
「卑弥呼、見よ、爾は彼方かなたの月のようにうるわしい。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
おゝ、うるわしき黄昏たそがれよ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
槻の並木の色はくらぶるものもないうるわしさである。堤の尽くるところに橋がある、鰍沢の入口で、ここにまた柳を写生した。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
意味はあきらかに、しかも優しく、うるわしく通じたが、待て、なぜ下へ降りよ、と諭す?
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あじきなく暮らすうちみち産声うぶごえうるわしく玉のような女の子、たつと名づけられしはあの花漬はなづけ売りなりと、これも昔は伊勢いせ参宮の御利益ごりやくすいという事覚えられしらしき宿屋の親爺おやじが物語に珠運も木像ならず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
われひそかにうるわしき絹糸もて、衣の上に十字を縫いおかん】
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これからは平凡な下り道ではあるが、荷が重いので休み休みゆく、道には野菊、蔓竜胆つるりんどうなど、あまた咲き乱れてうるわしい。彼方是方に落葉松の林を見る。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
木理もくめうるわしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫あかがしを用いたる岩畳作りの長火鉢ながひばちむかいて話しがたきもなくただ一人、少しはさびしそうにすわり居る三十前後の女、男のように立派なまゆをいつはらいしかったるあとの青々と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)