から)” の例文
他に何人だれも客がなくてそれでお幸ちゃんが出前をもって往ったことがあった。北村さんの右の手はこっちの左の手首にからまっていた。
萌黄色の茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お前が気がつく人間なら、からみついたとき腰のあたりを捜して見るところさ、夢中になって一杯飲んで居ちゃそこまでは気が廻るめえ
二人とも内容を関知せざる由にて、前記銅像の件と共に森栖氏の失踪にからまる不可思議の出来事として、関係者の注意をいている。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしにしましても、自分を死ぬほど愛している葛岡が、別にからまる永い因縁から年上の女教師に脅迫を以て結婚を迫られている。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「でもさ! ごらんなさいよ。部屋の荷物が引っからげてあるじゃないの。やっぱり気まりが悪いのね。あんたに合せる顔がないのよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやに逃げるじゃないか」と執念深い刑事はかえってからみついてきた。「ところで一つたずねるが、赤ブイ仙太を見懸みかけなかったか」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし枝葉に置く霜の影に透したらんに、細いかいなに袖からみ、乳乱れ、つま流れて、白脛しらはぎはその二片ふたひらの布をながれ掻絞かきしぼられていたかも知れない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだけでも随分大騒ぎになりそうなところへ、おまけに例の一件がからんでいるんですから、みんな不思議がるのも無理はありません。
半七捕物帳:34 雷獣と蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
竹やよしを綺麗に組み合わせて小さな小屋形のものを作り、それに朝顔を一ぱいにからませたりしてあるのも、その園内に持っていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
物質的にも、肉體的にも蛇の如くからみついて、彼女の肉と血を絞り喰らつて來たひもである。二十七八歳の職人風の小男であつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
贋金使いはからみつく奴を蹴飛ばして、奪い取るように兵馬の身体を南条という武士の手から受取って、一本背負いっぽんじょいに背中へ引っかけて
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが狂念となって潜んでいるが、時としては表面にあらわれてかれをおびやかした。遺伝というものが心頭しんとうからみついていて離れない。
興福寺の宝物の華原磬かげんけい(鋳物で四ひきの竜がからんだもの)というものを黄楊つげで縮写したのを見ましたが、精巧驚くべきものでした。
立ちなおろうとしたが、もがけばいっそうからみつくばかり。あわてた与吉が、自分の半纒をかぶって獅子しし舞いをはじめると……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今川義元の菩提所ぼだいしょに家康が幼時人質ひとじちに来ていたという因縁がからんでいる丈けに道具の品目がおびただしい。義元公自画自讃という掛物があった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
滑稽であったのは、長次郎が一足余分にあったカンジキを草鞋切れの紐を拾って無雑作にからげつけ、よたよたしながら下りたことである。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
見て居る内に、長持のうしろからまた一疋のろ/\這い出して来て、先のとからみ合いながら、これもパリ/\卵の殻を喰いはじめた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それもわづかくはからんだ晝顏ひるがほはなに一ぱいりやうそゝいではあわてゝ疾驅しつくしつゝからりとねつしたそらぬぐはれることもるのであるが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
男の素性はよく分からないが、だが、正直で純で、素直で力持ちで、浮世の塵とか垢とかはこの男に毛ほどもからまりついていないのである。
猿ヶ京 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
紡績絣に赤い帯をしめた小娘のヤスの姿と、俄にガランとした家と、そこにからんでいるスパイの気配とをまざまざ実感させる文章であった。
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この互いにからみ合っている二匹の白猫は私をしてほしいままな男女の痴態を幻想させる。それからはてしのない快楽を私はき出すことが出来る。……
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
わが第一の疑ひはこれらの微笑ほゝゑめる短きことばによりて解けしかど、一のあらたなる疑ひ起りていよ/\いたく我をからめり 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
女の背にはそういう咒文がからみついているのであった。やりきれない卑小な生活だった。彼自身にはこの現実の卑小さを裁く力すらもない。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、片方の糸を——解けない方だよ——把手ノッブの角軸に結びつけないで二回り程からめておいて、間をピインと張らせておく。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
係長は、底意ある眼つきで石田氏の横顔をながめていたが、手ぬるいことでは駄目だと思ったのか、調子を変えて、ネチネチとからみだした。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「あなた方は打破せられた。打破することが有益であることもある。しかし私は憤怒のからみついた打破には信を置きません。」
所々に模様にくずした草花が、長いつると共に六角をからんでいる。仰向あおむいて見ていると広い御寺のなかへでも這入はいった心持になる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
通ると、犬が五六匹来やがって足へからまって投げられた、其の時噛合かみあった血だらけの犬が来やがって、己に摺附けたもんだから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
へべれけになって現われ、初めから計画的に酒をあおって来たものらしく、いきなり若林の傍に坐っている銀子の晴子にからんで来るのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一つ一つ骨にからんだ腸でも手繰り出されるような妙良の悲鳴が、今だに耳の中で真赤な渦をまいて、思ってもぞっとするわ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
彼は松にからみついて居るあの藤の太い蔓を、根元から、桑剪くはきばさみで一息に断ち切つた。彼は案外自分にも力があると思つた。
ところで日常身辺の事実が示しているのは単に物理学的現象のみではなく、化学的・生理学的・動植物学的等の諸現象の複雑なからみ合いである。
寺田寅彦 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私達の心は廣重の圖中にある旅客の氣分と、お伽噺や探險談の中にある傳説的な氣分とがからんで浮世ばなれのした一種の快感を覺えるのでした。
初島紀行 (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
柵の向うは廓外のしもたやの縁先になっていて、葡萄棚ぶどうだなやへちまの棚があって、柵には朝顔のつるなんかがからみついていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
蔓バラを典雅にからみ合せた特徴ある図案は、どなただって一度は見て、そうして、記憶しているほどでございますものね。
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
壁に掛けた小さな額縁には、つたからんだバルコニーの上にくっきりとあおい空がのぞいていた。それはいつか旅で見上げた碧空のように美しかった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
坊主頭ぼうずあたまへ四つにたたんだ手拭てぬぐいせて、あさ陽差ひざしけながら、高々たかだかしりからげたいでたちの相手あいては、おな春信はるのぶ摺師すりしをしている八五ろうだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
で、早速の気転で、お客の重みで寝台ねだいが押し潰れないやうに、鉄線はりがねでもつて、方々を蜘蛛の巣のやうにからめにかゝつた。
それをきいたかぼちやのをこつたのをこらないのつて、いしのやうな拳固げんこをふりあげてかからうとしましたが、つるあしにひつからまつてゐてうごかれない。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
例の金銭問題がからんでゐることは夢にも知らないから、ただ、夫との不和、並びに自分への思慕がさういふ行動を取らせたものと思ひ込んでゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あの時以来まだ押入に突っ込んであったフンシを出してやりなどすると、リリーはその間も始終後を追って歩いて、足もとにからみ着くようにした。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ジャングルのなにかの樹にからみついていて、おとなの腕ほどもある鎌首をあげ、葉の茂み越しに、向うから近づいて来る探検家夫妻を狙っている。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先のいらだたしさがいつまたからみついて来るか知れない不安さを感じたので、今度は一番先頭に立って歩いていった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ねえ、七郎丸、あれはおそらく十年も前のことになるだろうな。今晩は、ひとつ旗にからまるお前の夢について……」
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
写真を見ると、平田と吉里のを表と表と合わせて、裏には心という字を大きく書き、捻紙こよりにて十文字にからげてあッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
それが金ちゃんの姉のおつるだということは後で知ったが紫と白の派手な手綱染たづなぞめの着物のすそ端折はしおッてくれない長襦袢ながじゅばんがすらりとした長いはぎからんでいた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
其処に人世の暗いものと、心の葛藤かっとうとがなければならない。結びついてからまった、ついには身を殺されなければならない悲劇の要素があったに違いない。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
怪しい誘惑がいつしか壮助の心に蜘蛛の糸のようにからみついて来た。机に向っていてもふと気をゆるめると、彼の耳はじっと階下の物音に澄されていた。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あの蒲団にからまる怨霊の恐ろしさに、いまさらながらただただ震え上がらずにはいられなかったのでございます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
また二、三の蛇、互いに纏うた処を編み物にして戸口に掲ぐる。ペルシアで絨氈じゅうたんの紋の条を、なるべく込み入って相からんだ画にするも、邪視をふせぐためだ