生活くらし)” の例文
いゝ機会だ、ことによると、これが増給のきつかけとなるかもしれないと、職工達はてんでに自分の生活くらし向きを正直に書き出した。
生活くらし向きの困難やら、種々なことを打ち明けてから、もしまた使って貰えなかったらたった一人の老母を見殺しにしなければならない
過渡人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
単なる生活くらしのためではなく、何らか田安家そのものに対して、企らむところがあってのことらしいと、そういうことを見て取った。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのころ小野が結婚して、京橋の岡崎町に間借りをして、小綺麗な生活くらしをしていた。女は伊勢いせうまれとばかりで、素性すじょうが解らなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それでは私はここにおっても仕事がありません。そんな生活くらしをする人達はいつも健全たっしゃで医者の厄介になる事がありませんから」
働く町 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の家では、生活くらしに要る物は大概は手造りにしました。野菜を貯へ、果實このみを貯へることなどは、殆んど年中行事のやうに成つて居ました。
それが今の僕の生活くらしを支へてくれるのではないのに、とにかく今日の今日も耐へて来た。それがとにかく僕に安心を与へてゐるのだらうか。
魔のひととき (新字旧仮名) / 原民喜(著)
自分はこの道を覚込おぼえこんで女師匠に一生一人生活くらしをして行く方が、結句けっく気安いだろうと思ったので、遂に自分の門弟となったが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そんな卑しい辛い思いをしないでも、別に生活くらしに困るというわけでもない。自分は倒れるまで働いて、きっと阿母さんに不自由はさせまい。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
して、百圓の生活くらしをするよりも、十圓の稼ぎをして十圓の生活をした方がいゝと思つてゐますね。この頃はそれどころぢやない。二杯の飯を
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
生活くらしは有福だからとて、遊んでいるのも詰らないという気持ちから、こうして馬の口を取って、時には旅人相手に働いているのだそうでした。
「人間は何でも売る物が多ければ多いほど生活くらしがよくなりやすからな。延寿丹も江戸の水も、私の戯作も、みなこれ旦暮たんぼの資のためでげす。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「え。うちのおっ母さんという人は、とても贅沢ぜいたくな癖のついている人だから、蓬なんか刈っているくらいでは、生活くらしがやってゆけないんです」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しみじみと虱を見てゐると、過去つた旅の十年間がおもはれるのであつた。もとは清潔な着物を着て、よい生活くらしを送つてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
どうして又そんな生活くらしをしてゐたのぢやと言ひなさるのかな? 貧乏のためかといふに、なかなか、貧乏どころぢやない。
ほんとに——ほんとにこんなお寺の生活くらしなんて、しんからしんじつつまらなくって、壁も壁も大壁みたようなものだろう。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
今ちょいと外面おもててめえが立って出て行った背影うしろかげをふと見りゃあ、あばれた生活くらしをしているたアが眼にも見えてた繻子しゅすの帯
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
シンガポールに出発したように奥様の手前をつくって、実は目と鼻の処へ家を持たせ、豪奢な生活くらしをさせているんです
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そこへさえゆけば、ひとねむっていてらく生活くらしがされるから、たがいにあらそうということをらない。ただ、しかしその幸福こうふくしまへいくのが容易よういでない。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
すり替えて、それで立派な生活くらしを立てて来たのだ。ところでじゃ、おわかりかな。貴公を疑い出した時にわしはその男のいつもの手を思いだしたじゃ
生活くらし」ということ、食物の問題、胃袋の問題が、きわめて重要な意味をもってきます。まことに無理もありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「泣いてはいけない、もう小児も大きくなって、生活くらしにも困らないじゃないか、百年も離れない夫婦が何所にある」
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
持って行きなと、諸方からこの通り恵んで下さいますので、金助、いっこう生活くらしに不自由というものを感じません
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここに最も気の毒な最も哀れむべき者は下等の修学僧侶の生活くらしである。これは自分の宅から送る学資金もない。また自分で働いて儲ける金もないのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかるに貴様あなたさまとの関係と同じく矢張やはり男の家で結婚を許さない、そのめ男はつひに家出して今は愛宕町あたごちやう何丁目何番地小川方をがはかたに二人して日蔭者ひかげもの生活くらしをして居る。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
生活くらしには困らないらしく、別に仕官の途を求めるでもなく、毎日ブラリブラリと遊んで居るといふことでした。
万事に甘い乳母を相手の生活くらしは千代子に自由の時を与えたので、二人夕ぐれの逍遙そぞろあるきなど、深き悲痛かなしみを包んだ私にとってはこの上なく恨めしいことであった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
事実上差別される者の多数は、後進部落とまで言われたほどにも一般世間の進歩におくれて、はなはだ気の毒な生活くらしを送っているものが多かったのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
山羊やぎの乳をしぼれば、他の者がふるいをその下に差し出していると云う、そんなはかない生活くらしなので、躯工合でも悪くなると、あれこれと考えるのだが、まあ
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それは道子がまことに気の毒な生活くらしをして居るのだという噂です。一言で云えば、彼女の夫たる清三は全く道子を愛しても居なければ、又、理解しても居ない。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「旨い事をしたと仮定しても、みんな使ってしまっている。生活くらしにさえ足りない位だ。その金は借りたんだよ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三十男の遊び盛りを今が世の絶頂つじと誰れが目にも思われる気楽そうな独身ひとりみ老婢ばあや一人を使っての生活くらしむきはそれこそ紅葉山人こうようさんじんの小説の中にでもありそうな話で
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
悪人と見ればたちまこぶしを上げて打って懲らすような事もあり、又貧乏人で生活くらしに困ると云えば、どこまでも恵んでやり、弱きを助け強きをくじくという気性なれども
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたしは、これまで、沖仲士をして来て、どうして、こんなに、みんなが汗水たらして働いとるのに、生活くらしが楽にならんのかと、不思議でたまらなかったんです。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
併し代々だい/″\学者で法談はふだん上手じやうず和上わじやうが来て住職に成り、とし何度なんどか諸国を巡回して、法談でめた布施ふせを持帰つては、其れで生活くらしを立て、御堂みだう庫裡くりの普請をもる。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ここも生活くらしには困っていたので、母の食料をかせぐため、丁度十八になっていたのを幸い、周旋屋の世話で、その頃あらたにできた小岩の売笑窟へ身売りをしたのである。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おきつねさま、今日こんにちは! ごきげんいかがですか、ご景気けいきはいかがですか、せちがらい世の中になりましたが、おきつねさまは、どんなお生活くらしをなすっておいでですか」
そんなわけで、私は自分で生活くらしを立てる前から、もう世の中というものが厭になっていました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ゆたかならぬ、生活くらし向きは、障子の紙の破れにも見え透けど、母なる人の木綿着ながら品格よきと、年若き息子の、尋常ならず母に仕ふるさまは、いづれ由緒よしある人の果てと。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
村では、四人も五人も家族を抱えて働いている四、五十位の小作人の方が、遊びたい盛りのフラフラな若い者達より、生活くらしのことではずッと、ずッと強い気持をもっている。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
しかし、かれはどうしたら働かないで生活くらしを立てて行けるかということを、くりかえしくりかえし話しただけでした。人民たちは何が何だか、ちっともわかりませんでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
ちゝ存命中ぞんめいちゆうには、イワン、デミトリチは大學だいがく修業しうげふためにペテルブルグにんで、月々つき/″\六七十ゑんづゝも仕送しおくりされ、なに不自由ふじいうなくくらしてゐたものが、たちまちにして生活くらしは一ぺんし、あさからばんまで
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
可なりの生活くらしをして居ながら、ぜにになると云えば、井浚いどざらえでも屋根ふきの手伝でも何でもする隣字となりあざの九右衛門じいさんは、此雹に畑を見舞みまわれ、失望し切って蒲団ふとんをかぶって寝てしもうた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
射倖心や嗜虐性の滿足を求める以外に、逞しい雄雞の姿への美的な耽溺でもある。餘り裕かでない生活くらしの中から莫大な費用を割いて、堂々たる雞舍を連ね、美しく強い雞共を養つてゐた。
盈虚 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
細かい生活くらしや、特殊な町の少年少女たちのことを書いたものだが、その中にすら、みどりという娘の周囲を、若紫のそれに——もっともこの件は、源氏物語と柳亭種彦の「偽紫田舎源氏にせむらさきいなかげんじ
お蝶は、ふと、この家の生活くらしのことなどを考へると、惨めに、夢から醒めた。
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ここの家は母子二人ぎりで、母が飴売りに出て生活くらしているのだと直ぐわかる
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
某氏(五七)はかなり楽な生活くらしをしていた人で、幸福であるために必要であるものはすべてそなわっていたのである。何が氏をしてかかる不幸な決意をなすに到らしめたのか、原因は全く不明である。
「はたらけどはたらけどなおわが生活くらし楽にならざり、じっと手を見る」
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
母親の生活くらしは又どうにでもしてやると、親元には相当の人を立て、そこから改めて嫁入り……と、まア、そこまで行かない分が、二千八百石御旗本の御側女おそばめになら、今日が今日にでも成られるので
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)