洛中らくちゅう)” の例文
「その様子では、洛中らくちゅうのさわぎも、ただごとであるまい。怪我けがしてはならぬゆえ、十八公麿まつまろも、きょうは、学舎をやすんだがよいぞ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この神苑の花が洛中らくちゅうける最も美しい、最も見事な花であるからで、円山公園の枝垂桜しだれざくらが既に年老い、年々に色褪いろあせて行く今日では
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
洛中らくちゅうと東山にはさまって、何だか、私どもは小さな人形同然、笹舟ささふねじゃあない、木の実のくりぬきに乗って、流れついた気がします——
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世の中はようやく押詰って、人民安からず、去年は諸国に盗賊が起り、今年は洛中らくちゅうにてみだりに兵器を携うるものを捕うるの令が出さるるに至った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風つじかぜとか火事とか饑饉とか云うわざわいがつづいて起った。そこで洛中らくちゅうのさびれ方は一通りではない。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄暗い空気に包まれていた洛中らくちゅうの風物をあとに見て、ようやく危険区域からも脱出し、大津の宿から五十四里も離れた馬籠峠の上までやって来て
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その十八日には洛中らくちゅうの盗賊どもこぞってついに南禅寺に火をかけて、かねてより月卿雲客げっけいうんかくの移し納めて置かれました七珍財宝をことごとかすめ取ってしまいます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
横佩墻内よこはきかきつに住む限りの者は、男も、女も、上の空になって、洛中らくちゅう洛外らくがいせ求めた。そうしたはしびとの多く見出される場処と言う場処は、残りなく捜された。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
藤十郎の茂右衛門と切波千寿のおさんとの密夫みそかおの狂言は、恐ろしきまで真に迫って、洛中らくちゅう洛外の評判かまびすしく、正月から打ち続けて勝ち誇っていた山下座の中村七三郎の評判も
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
洛中らくちゅう洛外らくがいの人びとが集まって来て、見せ物か何かのようにそれを見物していた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
洛外らくがい北山に住んでいて、時々洛中らくちゅうに現われては、我君を詈り時世を諷する、不思議な巫女があるという、困った噂は聞いていたが、ははあさてはこの女だな。よしよし後をつけてみよう。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから間もなく洛中らくちゅうの空に黒雲がおゝひろがって大雷雨が襲来し、風を起しひょうを降らして、宮中の此処彼処こゝかしこに落雷した。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
洛中らくちゅうに一人の異形いぎょう沙門しゃもんが現れまして、とんと今までに聞いた事のない、摩利まりの教と申すものを説きひろめ始めました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その十八日には洛中らくちゅうの盗賊どもこぞつてついに南禅寺に火をかけて、かねてより月卿雲客げっけいうんかくの移し納めて置かれました七珍財宝をことごとかすめ取つてしまひます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
洛中らくちゅうに着くと秀吉は、供の面々へは、旅舎で休めと、いたわりを与えたが、自身は戦陣のほこりにまみれた軍装と、ひげの伸びた垢面くめんのまま、すぐ二条城へ上って
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洛中らくちゅう是沙汰これさた。関東一円、奥州まで、愚僧が一山いっさんへも立処たちどころに響いた。いづれも、京方きょうがた御為おんため大慶たいけいに存ぜられる。此とても、お行者のお手柄だ、はて敏捷すばやい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この大和行幸の洛中らくちゅうへ触れ出されたのを自分が知ったのは、柳馬場丸太やなぎのばばまるたさがル所よりの来状を手にした時であった。これは実にわずか七日前のことに当たる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
七三郎の巴之丞が、洛中らくちゅう洛外の人気をそそって、弥生狂言をも、同じ芸題だしもので打ち続けると云う噂を聞きながら、藤十郎は烈しい焦躁しょうそうと不安の胸を抑えて、じっと思案の手をこまぬいたのである。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さむらい連歌師れんがし、町人、虚無僧こむそう、——何にでも姿を変えると云う、洛中らくちゅうに名高い盗人ぬすびとなのです。わたしはあとから見え隠れに甚内の跡をつけて行きました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さて洛中らくちゅう洛外らくがいの非人乞食で大病難病をわずらふ者を集め、風呂に入れて五体をきよめ、暖衣を与へて養生をさするに、癩瘡らいそうなんどの業病ごうびょうたちまちに全快せぬはない。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
なから舞いたりしに、御輿みこしたけ愛宕山あたごやまかたより黒雲にわかに出来いできて、洛中らくちゅうにかかると見えければ、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早乗りの駕籠かごは毎日幾立いくたてとなく町へ急いで来て、京都の方は大変だと知らせ、十九日の昼時に大筒おおづつ鉄砲から移った火で洛中らくちゅうの町家の大半は焼けせたとのうわさをすら伝えた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
武田勝頼たけだかつより、ほかふたりの従者がすみぞめのころも網代笠あじろがさぶかにかぶり、ひそかに、東海道からこの京都へはいったので追跡ついせきしてきたが、ついに、この洛中らくちゅうで見うしなったゆえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃洛中らくちゅうで評判だったのは、この御姫様ともう御一方、これは虫が大御好きで、長虫ながむしまでも御飼いになったと云う、不思議な御姫様がございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
京都や安土あづちのエケレジヤの建築様式については、南蛮屏風びょうぶや扇面洛中らくちゅう洛外らくがい名所図などに徴して、ほぼ仏寺のていであつたと推定されてゐるが、これが地方へ行くと
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
なから舞ひたりしに、御輿みこしたけ愛宕山あたごやまかたより黒雲くろくもにわか出来いできて、洛中らくちゅうにかゝると見えければ、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「しょうちいたしました、すぐ洛中らくちゅうをくまなくただしてごぜんへその者をしつれます」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この多襄丸たじょうまると云うやつは、洛中らくちゅうに徘徊する盗人の中でも、女好きのやつでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下々しもじもの口かられて、たちま京中きょうちゅう洛中らくちゅう是沙汰これさただが——乱心ものは行方が知れない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まず、何より違って来たことは、洛中らくちゅうに入るとすぐ、大君ここにましますという光耀こうようと清潔さにちていることと、その「民」たるをもって幸福としている人々の平和な生活ぶりだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今では二十何人かの盗人のかしらになって、時々洛中らくちゅうをさわがせている事、そうしてまた、日ごろは容色を売って、傀儡くぐつ同様な暮らしをしている事——そういう事が、だんだんわかって来た。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洛中らくちゅうの庶民は、信長の公平と、法令の峻厳しゅんげんに感じ合った。かねて諸処の公札に
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、聞え渡るだけでも、洛中らくちゅうは明るくなった。殿上人も庶民も安心した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、四条河原の蓆張むしろばりの小屋ならば、毎晩きっとあの沙門が寝泊りする所ですから、随分こちらの思案次第で、二度とあの沙門が洛中らくちゅうへ出て来ないようにすることも出来そうなものだと思うのです。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一家骨肉三名までがたおれ、弟子も離散した後、なお、吉岡憲法の名をついで、洛中らくちゅうに初祖憲法の声誉と家名をけがして歩いていた遺族があるとすれば、これは箸にかからないことになるが、落魄らくはくしても
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十八日、洛中らくちゅうを引きまわし、後、首級は粟田口あわだぐちけられた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)