泡立あわだ)” の例文
せいろんへ——無作法な笑い声のあいだから妖異よういな諸国語を泡立あわだたせて、みんなひとまず、首府コロンボ港で欧羅巴からの船を捨てた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たちまち、うしほ泡立あわだち、なみ逆卷さかまいて、其邊そのへん海嘯つなみせたやう光景くわうけいわたくし一生懸命いつせうけんめい鐵鎖てつさにぎめて、此處こゝ千番せんばん一番いちばんんだ。
障害は水を泡立あわだたしめ、人類を沸騰せしむる。そこに混乱が生ずる。しかしその混乱の後にも多少前進したことが認められる。
こんなに髪をくしゃくしゃにして、ガランスのかった古い花模様の蒲団の中から乗り出していると、私の胸が夏の海のように泡立あわだって来る。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さっと一汐ひとしお田越川たごえがわへ上げて来ると、じゅうと水が染みて、そのにぶつぶつ泡立あわだって、やがて、満々と水を湛える。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入れてよくよく泡立あわだたせてレモン汁かライムジュースか何かいものを白身へ加えてまた泡立たせて今のソースをコップへ注いでその上へ白身を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
少し風のある日で、長いなぎさには寄せ返す波が白く泡立あわだち、はるかな沖に漁をする舟が幾つか見えていました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の身体からだを作上げている、あらゆる元素どもが、彼の皮膚ひふの下で、物凄ものすごく(ちょうど、後世の化学者が、試験管の中で試みる実験のように)泡立あわだち、えかえり
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
今まで花のような模様を描いて、海面のところどころに日光を恵んでいた空が、急にさっと薄曇ると、どこからともなく時雨しぐれのようなあられが降って来て海面を泡立あわだたす。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
がとにかく、いままで風のために平らにおさえつけられて泡立あわだっていた波は、いまではまるで山のようにもり上がってきました。また、空にも不思議な変化が起っていました。
と、泡立あわだつビールのコップをかゝへた手を中間で波のやうに顫はせて香川は声高に笑つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
銀匙ぎんさじがある。歓声がある。笑語がある。泡立あわだつシャンパンの杯がある。そうしてすべての上の冠として美しい女性にょしょうがある。三四郎はその女性の一人ひとりに口をきいた。一人を二へん見た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
泡立あわだつ激流の音は聞こえていたが、川の面は見えなかった。おりおり、目がくらむばかりのその深みの中に、一条の明るみが現われて茫漠ぼうばくたるうねりをなした。
よく晴れた日で、遠くところ島の岩礁が白く泡立あわだっているのが見え、ゆるい東南の風に送られて、沖のほうから寄せる波が足許あしもとの岩にうち当ってさあと砕けた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うみおもて瀧壺たきつぼのやうに泡立あわだつて、ひどいもひどくないも、わたくし少年せうねんとは、あたまかゝへて、ていそこうづくまつてしまつたが、其爲そのために、昨夜さくや海水かいすいひたされて、いまやうやかわきかけてつた衣服きもの
こう解釈した時彼は、今まで泡立あわだっていた自分の好奇心に幾分の冷水をしたような満足を覚えると共に、予期したよりも平凡な方角に、手がかりが一つできたと云うつまらなさをも感じた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まぶしいほどに白く、なめらかに豊満な、美しい双のまるみが、泡立あわだつ水の中へ沈んでゆくのが見えた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
淵から三段ばかり上に棚瀬があり、水が白く泡立あわだって落ちている。魚はその棚瀬で跳ねたらしい。半三郎が眼をやると、また一尾、かなり大きな魚が跳ねて、棚瀬の向うへ姿を消した。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
濃紺色の海が荒れて白く泡立あわだち、もう大陸からの寒風が吹きだしていた。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
川幅はそこでもっとも広くなるが、いまは水の少ない季節で、広い河原のあいだを、細い流れを合したり離れたりして、それでも、瀬のあるところでは、白く泡立あわだち、爽やかな音をひびかせていた。