有耶無耶うやむや)” の例文
ところがまだ越前へ移らぬうちに秀吉が死に代つて政務を見るやうになつた家康のはからひで移封は有耶無耶うやむやに立消えてしまつた。
家康 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
有耶無耶うやむやの内は、夢だろうぐらいで私も我慢をしましたけれども、そうどうも手首へ極印を打たれちゃあ辛抱がなりません。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどおのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
つまり若林の立場としては、いやでもおうでも、この事件の真犯人を有耶無耶うやむやに葬り去る事が、どうしても出来ない立場におるのだ。……しかるにだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、かくも、その日は有耶無耶うやむやで済んで了った。無論、一度位では駄目だ。Tの計画では、幾度も、幾度もそれを続けてやって見るつもりだった。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
結局、塚原渋柿園つかはらじゅうしえん氏らも口を利いて、この事件もまず有耶無耶うやむやに納まったが、その以来、桜痴居士は『日日新聞』紙上に筆を執らないようになった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かく、警察へは引張られずにすみ、事件は、それ何とかいいますねえ、そうそう「迷宮入り」ですか、まったく、有耶無耶うやむやにすんでしまいましたよ。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
行ってよろしいともいわず、行ってはならぬともいわず、有耶無耶うやむやのうちに到頭無理やりに父の承諾を得た時は、どんなに躍り上がったか知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
静かな庭に、松の影が落ちる、遠くの海は、空の光りにこたうるがごとく、応えざるがごとく、有耶無耶うやむやのうちにかすかなる、耀かがやきを放つ。漁火いさりびは明滅す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くくられとる。向こうは長びかせといて、有耶無耶うやむやにしてしまおうという考えじゃ。その作戦に引っかかっとる
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
昨日は水の面をはつて一望をたゞ有耶無耶うやむやの中に埋めた霧が、今朝はあとも無く晴れて、大湖をめぐる遠い山々の胸や腰のあたりに白雲が搖曳えうえいしてゐるばかりで
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、一旦、許可したのを、今さらむげに解散させるというわけにも参らぬので、事を有耶無耶うやむやの中に葬ろうとして、どっちつかずの態度を取ることになった。
而も二度の計畫とも、彼は祕密の裡に隱し有耶無耶うやむやの裡に葬つてしまつてゐる! 結局私はメイスン氏がロチスター氏に對して服從的であるといふことを知つた。
平次はそんな事を考えると、このまま有耶無耶うやむやにして、逃出してしまいたいような気になるのでした。
こんなことをしているうちにすっかり春になり、雪の研究の第一年は有耶無耶うやむやの中に過ぎてしまった。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その為にどの山がそれであるかを判定するに充分なる証拠となるき資料が残っていないので、今まで深く論究されずに有耶無耶うやむやの中に放棄されてしまった観がある。
いはんや見合ひなどした際、どちらか一方が幻滅を感じたにも拘らず、当座の義理や体裁から、これを有耶無耶うやむやに葬つて結婚するなどに至つては笑止のきはみであると思ふ。
「そうかて、今度は貞之助兄さん迄本家に附いてはるよって、有耶無耶うやむやにしとく訳に行かんねんわ」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この場合に結果を都合のよいようにこじつけたり、あるいは有耶無耶うやむやのうちに葬ったり、あるいは予期以外の結果を故意に回避したりするような傾向があってはならぬ。
物理学実験の教授について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その縁談は、慶四郎の煮え切らない態度で有耶無耶うやむやになりそのまま今度の事件になってしまった。
呼ばれし乙女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なかなかの人物で政治にも画策したため、陰謀の疑いをうけて永仁六年三月佐渡に流され、七月天皇も御譲位になったので、撰集の沙汰さたは全く有耶無耶うやむやに終ってしまった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
口では、承諾の旨を答へなかつたけれども、有耶無耶うやむやの裡に、預ることになつてしまつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その有耶無耶うやむやになった脳裡のうりに、なお朧朦気おぼろげた、つきひかりてらされたる、くろかげのようなこのへや人々ひとびとこそ、何年なんねんうことはく、かかる憂目うきめわされつつありしかと
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
長い間一緒にいた女とも有耶無耶うやむやに別れて了って、段々詰らん坊になり下っている癖に、またしても、女道楽でもあるまい、と、少しは見せしめの為にその銭は渡すこと相ならぬ
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これより先、道庵は、ちょっと買物をするつもりが、雲助を相手に、酒屋へ入るといい気持になり、うっかりその駕籠に乗せられて、有耶無耶うやむやのうちにかつぎ出されてしまいました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに自分の一生をけるようなつもりでさえいたのに、気がついた時にはもういつの間にか二人は以前の習慣どおりの夫婦になっていて、何もかもが有耶無耶うやむやになりそうになっている。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一たん仰せ出された儀を、このまま有耶無耶うやむやに過しては、あとあとの御威令ごいれいにもかかわりましょう。父孝高の潔白と功にかんがみ、松寿丸の打首は免じるが、然るべきよう子としてもあかしを立てよ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有耶無耶うやむやに一団落ついて慶三は従前通り妾宅へ通っていたが、また十日ほども経った或日あるひのこと、午後に夕立が降りそこなったなり、風の沈んだ蒸暑い晩をば、慶三は宵から二階へしけこみ
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今度こそ有耶無耶うやむやでは済まされず、何か動きの取れない条件がつくものだろうと思うと、今さら寂しかった。夫人がその背後にあって、かぎを握っているということも、想像されなくはなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何時いつ晝間ひる疲勞つかれに二號鐘がうしようかぬうち有耶無耶うやむやゆめちた。
結婚したまま有耶無耶うやむやに六年間舅の助手で過してしまいました。
雲と有耶無耶うやむやの境地に澄みかへれるは本栖湖にやあらむずらむ。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
衝動性の犯罪として有耶無耶うやむやのうちに葬られてしまったのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
有耶無耶うやむやの中にその不思議な心理を抑塞よくそくした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ところがまだ越前へ移らぬうちに秀吉が死に代って政務を見るようになった家康のはからいで移封は有耶無耶うやむやに立消えてしまった。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ただむなしく有耶無耶うやむやとしているもののように見える場合に云うので、極端にえらい人やえらくない人、大人物を装うものや負け惜しみの強い卑怯者
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
師匠を殺した相手がわからなければ格別、本人のお葉はもう自滅しているのだから、素知らぬ顔をして有耶無耶うやむやに葬ってしまう積りであったらしいのです。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「この高貴な方へ手を入れるには、よほどの証拠固めをしてかからねばならぬ。調べれば調べるほど混沌として、半年たった今でもまだ有耶無耶うやむやなのだよ!」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
生きてあらんほどの自覚に、生きて受くべき有耶無耶うやむやわずらいを捨てたるは、雲のしゅうを出で、空の朝な夕なを変わると同じく、すべての拘泥こうでいを超絶したる活気である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有耶無耶うやむやほうむってまたいつのにか平気な顔で佐助に手曳てびきさせながら稽古に通っていたもうその時分彼女と佐助との関係はほとんど公然の秘密になっていたらしいそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
口では、承諾のむねを答えなかったけれども、有耶無耶うやむやうちに、預ることになってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
このまゝ有耶無耶うやむやにして、私や弟達が乞食になつては、死んだ父親も浮び切れません。
ただその有耶無耶うやむやであるために、男のあとを追いもならず、生長いきながらえるかいもないので。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにもかかわらず、事件はきわめて不明朗な形で、有耶無耶うやむやに葬り去られようとしていた。新之助が、吊り道具を切り落した下手人と睨んだ「作やん」は、当夜から、行方が知れない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
或る場合は、被害者の方であきらめて警察へ届けなかったり、仮令警察沙汰になっても、指紋の発見まで行かぬ内に有耶無耶うやむやに葬られて了ったり、張合はりあいのない程楽々と泥棒が成功するのでした。
器量も気立てもかりそうだなど自分も考え、明らさまに断わりをいうわけにも行かず、有耶無耶うやむやの間に日がっております中に、その娘の人は、計らず、ふとした病気で亡くなってしまいました。
それもつい云いそびれて有耶無耶うやむやにしてしまったか分からない。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこで、結局、あれもこれも、有耶無耶うやむやです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
天帝のあはれみ給ふところと喜んでごまかして、有耶無耶うやむやのうちに戦争が終つて、私は幸ひブン殴られずに済んだのである。
ぐうたら戦記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そんな奴が幾らかの鼻楽を貰って、お鎌に手を貸してたんじゃあないかとも思われますが、甚右衛門の顔に免じて、そこはまあ有耶無耶うやむやにしてしまいました