新道しんみち)” の例文
茶店のえんに腰を掛けて、渋茶を飲みながら評議をした。……春日野の新道しんみち一条ひとすじ勿論もちろん不可いけない。峠にかかる山越え、それも覚束おぼつかない。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出が道明どうみょうゆえ厭かは知らねど類のないのを着て下されとの心中立しんじゅうだてこの冬吉に似た冬吉がよそにも出来まいものでもないと新道しんみち一面に気を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
押しつまって何となくあわただしい気持のするある日、正月の紋附もんつきなどを取りに行くと言って、柳吉は梅田うめだ新道しんみちの家へ出掛けて行った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
深川の妓家ぎか新道しんみち妾宅しょうたく、路地の貧家等は皆模様風なる布置ふち構図のうちおのずか可憐かれんの情趣を感ぜしむ。試みに二、三の例を挙げんか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
云號いひなづけと思ひ居る事の嬉敷うれしくは思へども利兵衞殿の心底しんていかはりなければお菊にあふまじと云をお竹は無理むりに吉三郎を連來つれきたり今度は新道しんみちへ廻り庭口にはぐちの切戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本通りのむこう側の新道しんみちにある「天松」という店の、本格的なてんぷら屋のものであるが、とらとてんぷらの関係については、のちに記すとしよう。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うちしめった秋らしい空気の中を岸本はバビロン新道しんみちの方へ引返して行った。丁度宿の前あたりで野外の画作を終って帰って来る牧野と一緒に成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お菓子屋新道しんみちをそうなまって言っているのだろうと勝手に思い込んでいたが、ずっと後になって、お菓子屋人(お菓子屋さん)の道というのだと知らされた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それは此間から新道しんみちで見料を取つて見せてゐる大きいわにを見に行きたいと云ふのである。夫は外国旅行をする筈で、もう汽車の切符を買つて隠しに入れてゐる。
車屋の黒のように横丁の肴屋さかなやまで遠征をする気力はないし、新道しんみち二絃琴にげんきんの師匠のとこ三毛みけのように贅沢ぜいたくは無論云える身分でない。従って存外きらいは少ない方だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あのひともだけれど、新道しんみち李嬌りきょうさんなぞも、向うから旦那に首ッたけだって噂じゃありませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
某化粧品屋の特製とかで(この間福岡の新道しんみちで只一個見かけたが、価格は四円五十銭と云った。安くなったと見える。しかも、その後二三日して行って見たら売れていた)
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
うちの旦那には女ばかりじゃアねえ男が惚れやすが、堅いからねえ、うとかして連れてきましょう、わっちが旦那を連れて新道しんみちを通る時、お前さんが森さんお寄んないと云うと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだ鐘撞堂かねつきどう新道しんみちの相模屋にいるはずだが、そうだとすれば今晩もここへかせぎに出ているかも知れない、と思って米友は、河岸の柳の蔭、夜鷹の掛小屋をいちいちのぞいて歩きました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本八丁堀屋根屋新道しんみち隠密おんみつまわり税所邦之助さいしょくにのすけの役宅へ呼ばれて、この花の一件をしかとおおせつかったいろは屋文次、かしこまりましたと立派にお受けして引きさがりはしたものの
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから少許すこし行くと、大沢河原から稲田を横ぎつて一文字に、幅広い新道しんみちが出来て居て、これに隣り合つた見すぼらしい小路こうじ、——自分の極く親しくした藻外といふ友の下宿の前へ出る道は
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
新道しんみち置土おきつちかわくすみれかな 里東
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
新道しんみちけては
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蝶子は器量よしの上に声自慢とはっさい(お転婆)で売ったが、梅田新道しんみちの化粧品問屋の若旦那とねんごろになった。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さまざまな物売の声と共にそのへん欞子窓れんじまどからは早や稽古けいこ唄三味線うたしゃみせんが聞え、新道しんみち路地口ろじぐちからはなまめかしい女の朝湯に出て行く町家まちやつづきの横町よこちょう
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こゝに新材木町なる白子屋しろこやしやう三郎一家の騷動さうどう委曲くはしくたづぬるに享保きやうほの始めの事なりしがこの白子屋の地面間口十二間奧行は新道しんみちの方へ廿五間すなは券面けんめん千三百兩の地を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「べらぼうめ、慾にじみちも新道しんみちもあるものか、だが、そりゃあそうとして、オイ、馬公」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上の新道しんみちを行くのであって、この旧道を突切つっきれば、萩の株に狼のふんこそ見ゆれ、ものの一里半ばかり近いという、十年の昔といわず、七八年以前までは駕籠かご辿たどった路であろう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「車屋ばかりじゃありません。新道しんみち二絃琴にげんきんの師匠からも大分だいぶいろいろな事を聞いています」「寒月の事をですか」「寒月さんばかりの事じゃありません」と少しすごい事を云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
只今では岩崎いわさきさんがお買入れになりまして彼処あすこが御別荘になりましたが、以前まえには伊香保から榛名山はるなさんへ参詣いたしまするに、ふただけへ出ます新道しんみちが開けません時でございますから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
以前私が飯山からの帰りがけに——雪の道をそりで帰ったとは反対の側にある新道しんみちに添うて——黄ばんだ稲田の続いた静間平しずまだいらを通り、ある村はずれの休茶屋に腰掛けたことが有った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貝殻かいがら散りたる深川の新道しんみちに峰次郎が窓の竹格子をあいだにしてお房と相語る処(『梅見船』巻九)また柳川亭やながわていといへる水茶屋みずぢゃや店先の図(『梅見船』巻十)を挙ぐべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
取寄とりよせ是をくはんと爲るを長助は目配めくばせをなしとむていゆゑさてはと思ひ何かまぎらして是をくはず夫より又七は新道しんみちの湯に行けるに長助もあとより同くきたり彼の毒藥どくやくをお熊が入たる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
取るけれどもア云う気性だから旦那に金を遣わせないね、大きなうちへも這入らない、新道しんみちで一寸八畳に六畳位の小さな土蔵でもある位な家を借りて居るね、下女は成丈なりたけ遣わない
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
市区改正について、道は南北に拡がった、小路、新道しんみち、横町のさまかわったから、何のなごりもとどめぬが、ただ当時絵草紙屋の、下町のこの辺にもたぐいなく美しいのが、雪で炎を撫ずるよう
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仏国オート・ヴィエンヌ州、リモオジュ町、バビロン新道しんみち、そこが岸本の牧野と一緒に宿をとったところだ。彼は喇叭らっぱを吹いて新聞を売りに来る女のあるような在郷臭ざいごくさい町はずれへ来ていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
重政がこの絵本にはその他なほ楽屋裏の新道しんみち編笠あみがさ深き若衆形わかしゅがたの楽屋入りを見せ、舞台のうしろに囃子方はやしかた腰かけて三味線きゐるかたわらに扮装せる役者の打語うちかたれるあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近江おうみ、越前の国境くにざかいすさまじい山嘯やまつなみ洪水でみずがあって、いつも敦賀つるが——其処そこから汽車が通じていた——へく順路の、春日野峠かすがのとうげを越えて、大良たいら大日枝おおひだ山岨やまそば断崕きりぎしの海に沿う新道しんみちは、崖くずれのために
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾妻橋あずまばしの手前東橋亭とうきょうていとよぶ寄席よせかどから花川戸はなかわどの路地に這入はいれば、ここは芸人や芝居者しばいものまた遊芸の師匠なぞの多い処から何となく猿若町さるわかまち新道しんみちの昔もかくやと推量せられる。
しずくの垂る処で一番綿帽子と向合おうという註文で、三日前からの申込を心得ておきながら、その間際に人の悪い紋床、畜生め、か何かで新道しんみち引外ひっぱずしたために、とうとうひげだらけで杯をしたとあって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)