はふ)” の例文
書く人間がゐちやはふつては置けません。一度はイヤな思ひをなさるつもりで、この書き手を搜し出し、後腐あとくされのないやうになさいませ
しかし決して「二二が四」から始まつてゐるとは限らないのである。僕は必ずしも科学的精神をはふつてしまへと云ふのではない。
「今まで我慢をしてゐたですけれど、もうはふつて置かれんから、私は赤樫さんに会つて、貴方の事をすつかり話して了ひます」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこで、とかく弱蟲よわむし女子をなごばかりが玩弄かまはれまするとけつかる。いや、おれは、野郎やらうをばはふし、女郎めらうをば制裁かまはう。
ふたをしない硯箱すずりばこには、黒と赤とのインク壺が割り込んでゐて、毛筆もペンも鉛筆もごつちやにはふり込んである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女は彼女でその傍に少し膝を崩して坐り、当のない憂欝に引き込まれながら、先刻道助が癇癪かんしやくを起して物置きの中へはふり込んだ小鳥の鳴き声を追つてゐた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
おたあちやんは、急に悪い気になつて、その三又土筆を掴むなり小川の中へはふり投げて了ひました。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
圭一郎は濟まない氣持で手紙をくしや/\に丸め、火鉢の中にはふり込んだ。燒け殘りはマッチを摺つて痕形もなく燃やしてしまつた。彼の心は冷たく痲痺しびれ石のやうになつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一葉女史なんざ草双紙を読んだ時、この人は僕と違つて土蔵があつたさうで、土蔵の二階に本があるので、わざ悪戯いたづらをして、剣突けんつくを食つて、叱られては土蔵へはふり込まれるのです。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『休暇で歸るのに見送りなんかて貰はなくつても可いと言つたのに、態々俥でやつて來てね。麥酒ビールや水菓子なんか車窓まどン中へはふり込んでくれた。皆樣に宜敷よろしくつて言つてたよ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
海の中へ天の羽衣をはふり込んで、さつさとうちへ帰り、床に入つて、寝てしまひました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
俺はやけに風呂敷包をはふり出して机の前に坐つて見た。火鉢の炭までが乱雑にくべられてある。「俺をこんな不愉快な目に遇はせて…………」と、俺は躍気やくきとなつて妻と姉を呪つた。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
おきみはその咽喉元のどもとを絞められて、この闇のどん底へ叩きのめされてしまつたとしても、周三だけはむしろ餘計者として他界へはふり出されるのかと思ひの外、同じやうに、その首と足とに
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
しやぶり終つてから骨を遠くへはふると、水音がし、骨は湖に沈んで行つた。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「それなら、あんたはんはふつといてうちら行つて来ますえ。」
悲しめる顔 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
はふりつぱなしで貸つぱなしな
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
月に向つてそれははふれず
「一と晩のうちに撒き切れなかつたと見えて、撒いた殘りの千兩は、帳面を添へて成瀬なるせ横町の自身番にはふり込んであつたさうだ」
私は一切がくだらなくなつて、読みかけた夕刊をはふり出すと、又窓枠に頭をもたせながら、死んだやうに眼をつぶつて、うつらうつらし始めた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その様子を見ると道助は少し堪へられなくなつてつと椅子を離れた。そして先刻彼女がはふり出した花束を拾ひ上げて、殆ど無意識にその花片はなびらを一つ/\むしり初めた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
下村は巧みに巻揚機ウインチにはずみをつけて、ざんぶと魚雷を水へはふり込んだ。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
今までは行方ゆきがたが知れなかつたから為方がないけれど、聞合せればぢきに分るのだから、それをはふつていちや此方こつちが悪いから、阿父さんにでも会つてもらつて、何とか話を付けるやうにして下さいな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたくしは一さいがくだらなくなつて、みかけた夕刊ゆふかんはふすと、また窓枠まどわくあたまもたせながら、んだやうにをつぶつて、うつらうつらしはじめた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次はたうとう錢をはふりました。女を相手に大人氣ないやうですが、さうでもしなければ、怪我人を拵へたかも知れません。
次の日、ふと道助は昨日腹立ちまぎれに物置の中へはふり込んでそのまゝになつてゐる小鳥のことを思ひ出した。もう昼近くのことでをやる時刻はとつくに過ぎてゐたのだ。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
保吉は吸ひかけた煙草と一しよに、乗り移つた悪魔をはふり出した。不意をくらつた悪魔はとんぼ返る拍子に小僧の鼻の穴へ飛びこんだのであらう。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ちやんは苦しさうに、石、石、——つて言つたよ。石を拾つて、惡者へはふれといふ事かと思つたが、眞つ暗でもう何んにも見えなかつたんだ」
彼女は熱のある眼つきをして、「私も小説を書き出さうかしら。」と云つた。すると従兄は返事をする代りに、グウルモンの警句をはふりつけた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その眞田紐さなだひもを、覗けば見えるやうな隣の部屋へはふり込んで、燈芯のやうに弱い赤い紐なんかを卷いて置くのも細工が過ぎて本當らしくありません
前夜にそこへころげ落ちたか、はふりこまれたかしたものである。すると同じ仲間の農夫が一人、彼の友だちに殺人犯人は彼自身であると公言した。
替へ鍵で開けて入ると、平常使つてゐる鍵は、藏の中にはふり出してあつて、中の樣子が大分變つてるぢやありませんか。
「旦那樣、何とか遊ばして下さいまし。このまゝはふつてお置きになると、相手は増長して、何をやり出すか判りません」
五分、十分、——トウルゲネフはとうとうたまり兼ねたやうに、新聞を其処へはふり出すと、蹌踉さうらうと椅子から立ち上つた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
併し焔の壁は思ひの外薄く、一瞬の後には、夜の冷々とした大地の上に、二人ははふり出されたやうに倒れてをりました。
労働者がどうとかしたら、気が違つて、ダイナマイトをはふりつけて、しまひにその女までどうとかしたとあつた。
寒山拾得 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「母家の床下に、はふり込んで土をかぶせてあつたが、下男の釜七に訊くと、富士見の塔の梯子に違ひないといふんだ」
「見やあがれ。おれだつて出たらめばかりは云やしねえ。」——南瓜かぼちやはさう云つて、脇差をはふり出したさうだがね。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「前の日お六どんが洗つて、井戸端のたらひの中に絞つたまゝはふり込んであつた、肌着類でした。お六どんは、ヒドく怖がつて、直ぐ洗ひ直しましたが」
僕は壁にかけた外套に僕自身の立ち姿を感じ、急いでそれを部屋の隅の衣裳戸棚の中へはふりこんだ。それから鏡台の前へ行き、ぢつと鏡に僕の顔を映した。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「だから、萬吉を抱き上げて、井戸へはふり込んだのは金次郎ぢやないのさ。人見知りをする子で、容易に誰の手へも行かなかつたといふぢやないか」
そこで彼は手拭と垢すりとを流しへはふり出すと半ば身を起しながら、苦い顔をして、こんな気焔きえんをあげた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こいつは聟入の恰好には無くてならぬ道具ですが、先刻さつき此處へはふり出して、嫁の部屋へ驅付けたのを、曲者は早速利用して、縁側からはふつたのでせう。
みんな日比谷ひびや公園の池へはふりこんで、生埋いきうめにしちまつたらう。それで金どんもやつぱり生埋めにされちまつたもんだから、それであんなにお母さんが泣いてゐるのさ。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
兇器は總兵衞自身が寢室の床の間に置いた用心の脇差で、それは曲者が逃げる時、面喰めんくらつて持出したものか、裏口の外、溝の中にはふり込んでありました。
良平は少時しばらく無我夢中に線路の側を走り続けた。その内にふところの菓子包みが、邪魔になる事に気がついたから、それを路側へはふり出す次手ついでに、板草履いたざうりも其処へ脱ぎ捨ててしまつた。
トロツコ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「死骸は羽織を着て居るが、羽織の紐が取れて居るだらう、——この通り飛んでもない方にはふり出してあるが」
これは銘仙だか大島だか判然しない着物を着た、やはり年少の豪傑がはふりつけた評語である。が、豪傑自身の着物も、余程長い間着てゐると見えて、襟垢えりあかがべつとり食附いてゐる。
着物 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大地にはふり出されて、起き上がらぬうちに、狂ひに狂つた馬は、二三十尺もあらうと思ふ崖の下へ、一くわいの土の如く落ちて、水音高く沈んで了つたのです。
云ひをはると共に、利仁は、一ふり振つて狐を、遠くのくさむらの中へ、はふり出した。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
場所は日本橋近かつたので、幸之進は死骸をさらし場にはふり込んだ。萬人に見せて怨みを晴すつもりだつたらう。