手頃てごろ)” の例文
「この小屋が手頃てごろ。こん夜からわしもここに泊るから、おまえ達も気のどくだが、二、三人ずつかわがわる看護にここへ泊ってくれい」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この畜類ちくるゐ、まだ往生わうじやうしないか。』と、手頃てごろやりひねつてその心臟しんぞうつらぬくと、流石さすが猛獸まうじうたまらない、いかづちごとうなつて、背部うしろへドツとたをれた。
親分と唖の巳代吉の間はいよ/\睨合にらみあいの姿となった。或日巳代吉は手頃てごろぼうを押取って親分に打ってかゝった。親分も麺棒めんぼうをもって渡り合った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すべてこの沿岸はその時分からおもに学生の集まる所でしたから、どこでも我々にはちょうど手頃てごろの海水浴場だったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旗男は義兄を助けるために、なにか手頃てごろの得物がないかと、湯殿の中を見まわした。そのとき眼にうつったのは、ななめに立てかけてある長い旗竿はたざおだった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御相談と申すはかの妾宅の一件御存じの如く兼々かねがね諸処心当りへ依頼致置いたしおき候処昨日手頃てごろの売家二軒有之候由周旋屋の手より通知に接し会社の帰途一応見歩き申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから西へ廻って長崎県の下五島しもごとうにもネンガラ打ちの遊びがあり、さらに熊本県の天草下島あまくさしもじまでも旧十一月うしの日の山の神祭の前に子どもが、手頃てごろの木をって来て
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は手頃てごろなボール箱を持ち出して、その中をあたかもビルディングの如く、厚紙で五階に仕切り、沢山の部屋を作り階段をつけ、各部屋への通路には勿論もちろん入口を設け、窓を作り
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
此頃はいまだはた平一面ひらいちめんの雪の上なれば、たはたの上をさらし場とするもあり、日の内にさらしふみへしたる処あれば、手頃てごろいたをつけたる物にて雪の上をたひらかにならしおく也。
で、そのみなせのみやをとぶらうのがこの時刻から出かけるのにはいちばん手頃てごろであった。やまざきまでなら汽車で行ってもすぐだけれども阪急で行って新京阪しんけいはんにのりかえればなお訳はない。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『ほんにそうでございました。丁度ちょうどここに手頃てごろ腰掛こしかけがございます。』
私が茨海ばらうみの野原に行ったのは、火山弾かざんだん手頃てごろな標本を採るためと、それから、あそこに野生の浜茄はまなすが生えているといううわさを、確めるためとでした。浜茄はご承知のとおり、海岸に生える植物です。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
むきだし是程に言ても聞分きゝわけ強情がうじやう阿魔あまめ然らば此所で打殺し川へ投込なげこむ覺悟かくごをしろと手頃てごろの木のえだ追取て散々さん/″\に打けるをお梅は片邊に見居たりしが迯出にげいださんとする所を雲助くもすけ眼早めばやく見咎めて爰にも人が居を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
といいながら、照彦てるひこ様は初心の手頃てごろの弓をって渡した。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
手頃てごろなものであるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
宗助そうすけはそれからびて、晩食ばんめしまして、よる近所きんじよ縁日えんにち御米およね一所いつしよ出掛でかけた。さうして手頃てごろ花物はなもの二鉢ふたはちつて、夫婦ふうふしてひとづゝつてかへつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手頃てごろの柱だ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三四郎が何か云はうとすると、足の前に泥濘ぬかるみがあつた。四尺許りの所、土がへこんで水がぴた/\にたまつてゐる。其真中まんなかに足掛りの為に手頃てごろな石を置いたものがある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)