得心とくしん)” の例文
「いや。君のお旨を、よく申し聞かせ、はかりごとのためなりと、得心とくしんの上で、仮の獄舎ひとやへ移しておくなら、なんのさまたげもないでしょう」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食べようッてのかい。だがねえ、お前はここへ来る時に、そういうような贅沢な真似が出来ないッてことは得心とくしんだったはずじゃないのかい
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
おいらは、得心とくしんのいくまで調べねえと、飯がうまくねえ性分しょうぶんだ。ちっとも遠慮することアねえから、おめえは、先へ引き揚げてくんねえ。
その猿をとうとう得心とくしんさせたのは確かに桃太郎の手腕である。桃太郎は猿を見上げたまま、日の丸のおうぎを使い使いわざと冷かにいい放した。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
決してお前をしかるのではないと得心とくしんさせて、ボツボツたずねて行くと、乞食は少女の様な可愛らしい声で、存外ハッキリ答弁することが出来た。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今更如何いかめたりともそのかいあらんようなく、かえって恥をひけらかすにとどまるべしと、かついさめかつなだめけるに、ようように得心とくしんし給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「あの女も今度のことについては、いろいろ勘違いをしているようですから、得心とくしんの行くように私からよく云って聞かせなけりゃあなりません」
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
請けもどし度とかねて心がけ居たることなれば江戸へ出て一かせぎなさんと思ひ九郎兵衞とも種々相談なせし上女房お里にも得心とくしんさせ夫より九助は支度を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
子供にも根気こんきよく話したら確かに得心とくしんのゆくべき性質のものゆえ、今日のところではまず誤りを含むことのもっとも少ないものと認めねばならぬ。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
おそらく田舎と江戸まえとは道具だけでも大分違うと思ったでありましょう。「なるほど、これでなくっちゃ」といって、非常に得心とくしんした風であった。
「でも、こんなことは、やっぱり昼間の方がようございますわ。明日になったら、今度こそ本当にご得心とくしんがいくように、私から申しましょうから。」
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「な、わしの言うことは分ったろうな? 分ったら、どうか得心とくしんして、わしの言うことをいてくれ、な、な!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
得心とくしんのいくまでゆっくり見て、見料はたった三十円だ。写真撮影、写生、録音、なにしてもようござんすよ。いらっしゃい、いらっしゃい、というのはどうだ
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一念深く省作を思うの情は増すことはあるとも減ることはない。話し合いで別れて、得心とくしんして妻を持たせながら、なおその男を思っているのは理屈に合わない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
女房たちがうわさするのを聞いて知っていたので、うつくしいと云うのはこう云う顔のことなのかと思ってはいたが、ほんとうにそうと得心とくしんが行っていたのではなかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おはま それ程よく得心とくしんしているのなら、って親子といわないで、早く帰っておくれでないか。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
先生はようやく得心とくしんしたらしい様子であった。しかし私にはその意味がまるでわからなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マッちゃん、おいおい泣いてみんなが弱っとった。よろずやのばあやんが、ようやっとすかして、得心とくしんさしたけんど、みんなもらい泣きしよった。わたしもなみだが出てきて弱った。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「内藤さん、あなただけで承知くだすっても、こういうことはお母様かあさま得心とくしんしていただかないと長続きがいたしませんから、私、そのうちに改めてお願いにあがりとうございます」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とかく角十の取り扱い方には依怙贔屓えこひいきがあって、駄賃書き込み等の態度は不都合もはなはだしい、このまま双方得心とくしんということにはどうしても行きかねる、今一応仲間のもので相談の上
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで二人は大家へ行つて部屋へや様子やうすをきき正した。私達わたしたちはもう家そのものはどうでも良かつた。たゞ自分達じぶんたちつかれた身体からだに一時も早く得心とくしんあたへるために直ぐその家を借りようといふになつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
籠抜けの伊八は、ようやく得心とくしんがいったと見えて、急に元気づいて
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もとんだうんのわるいつまらぬやつ見込みこまれて可愛かあいさうなことをしたといへば、イヤあれは得心とくしんづくだとひまする、あの夕暮ゆふぐれ、おてらやま二人ふたりたちばなしをしてたといふたしかな證人しようにんもござります
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただその事のそんなるとえきなるとを説きて得心とくしんせしむべし。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
理に合わなければ、彼等は得心とくしんしないのだ。しかもその理論は自分たちの観念を基数として立てたものでなければ肯定こうていできない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まりや」はやつと得心とくしんしたやうに、天上の微笑びせうを輝かせた。それから又星月夜の空へしづしづとひとり昇つて行つた。……
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の人形が可愛さに、思わずその仇を手にかけたと紋作はしきりに云い訳をしたが、冠蔵はなかなか得心とくしんしなかった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
申べしと云ばおきく得心とくしんして出たりけりさて大岡殿おほをかどの利兵衞にむかひ如何に利兵衞其方そのはうくしかんざし證據しようことして與兵衞供々とも/″\吉三郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ここで今私が説明しても、あなたには得心とくしん出来ぬかも知れませんから、明日みょうにちその証拠をお見せしましょう」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「校長室になんか、行かなくてもいいんだ。君が得心とくしんしてくれさえすれば、それでいいんだから。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
痣蟹は吸血なんていうケチな殺人はやらない。嘘だと思ったら、今夜十一時、銀座のキャバレー、エトワールへ来たれ。きっと得心とくしんのゆくものを見せてやる。必ずきたれ!
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お母さんはもうすっかり、得心とくしんがいった。後から奥様をほめるやほめないではない。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただおとよさんが得心とくしんして来てくれさえすれば、来た日からでも身上しんしょうまかないもしてもらいたいっての、それは執心な懇望よ、向うは三度目だけれどお前も二度目だからそりゃ仕方がない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
真剣な態度でいろいろと骨格態姿たいしを一々仔細に観察するのでありますから、物を公平に観ることが出来るのですが、少しも贔屓目ひいきめを附けず、「種」の方が全く良種であることに得心とくしんが行きました。
と言って少女は得心とくしんしたが
「いいどころじゃない。どうせ、うちの方へ得心とくしんして貰ったら、私の手道具や着物まで、スッカリ荷物にして阿波へ送ろうという話なのだから」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯だしぬけに暇を取つてくれでは判らない。その仔細をよく聞いた上で、兄にも成程と得心とくしんがまゐつたら、又掛合ひのしやうもあらう。仔細を云へ。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
なだ家内かない和合わがふ致さるゝやうなさるべし不如意ふによいの事は及ばずながら此長兵衞見繼みつぎ申さんと利解りかいのべけれどもお常は一かう得心とくしんせず又七事菊と忍合しのびあひ情死しんぢうなさんとせしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると数馬も得心とくしんしたように、では思違いだったかも知れぬ、どうか心にかけられぬ様にと、今度は素直に申しました。その時はもう苦笑いよりは北叟笑ほくそえんでいたことも覚えて居りまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
忠義一図いちづのお父さんは一も二もなくお受けをしてきたが、二男じなんの裕助君が異議を申し立てたのにおどろいた。お母さんも無条件の賛成でなかった。得心とくしんのような不得心ふとくしんのようなことばかりいう。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かれの一声で、和談となった紛争では、いつも、喧嘩の双方に、充分な得心とくしんを与え、片手落ちがなく、双方によろこばれた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらは暗い部屋にかくれてゐる娘をたづねて、親たちにかわつて色々に説得したが、彼女は矢はり得心とくしんしなかつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
(正直な答弁である)と感じたらしく、その間に、口をさし挟む者がなかったばかりでなく、誰にもよく、僧正の人格というものが得心とくしんされた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただだしぬけに暇を取ってくれではわからない。その仔細をよく聞いた上で、兄にも成程と得心とくしんがまいったら、また掛け合いのしようもあろう。仔細を云え
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鎌倉における自分の立場も、またいま、不知哉丸いさやまるを高氏の長子として表面に出すことのむずかしさなども、充分、得心とくしんしていたはずの彼女である。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お春はそれで一旦得心とくしんしたのですが、家へ帰って親父に話すと、親父はよい辰ですから迂濶にその手に乗りません。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「気のどくだが、いちど上がった舞台、てめえを叩きつけて、ご見物に得心とくしんをつけるまでは、ここを退がるこっちゃあねえんだ。……ええ、お侍さまたち」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町役人どもが相談してづ親たちにも得心とくしんさせ、その次第を書きあげて差出すと、かかりの役人もひたいしわめた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「もし、そんな妙計があるなら、これは呉の驚異です。願わくは、初対面のそれがしのために、その内容を、得心とくしんの参るよう、つぶさにお聴かせ下さらんか」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論、俊乗は得心とくしんいたしません。かれこれと云い争っているうちに、お歌はだんだんに言葉があらくなりまして、お前がどうしても云うことを肯かなければ、わたしにも料簡がある。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)