引抱ひっかか)” の例文
彌作も魂消たまげて息を殺していると、𤢖は鶏舎とやの中から一羽をつかみ出して、ぎゅうとくびねじって、引抱ひっかかえて何処どこへか行ってしまったと云いますよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と天幕に入ると、提げて出た、卓子を引抱ひっかかえたようなものではない、千じんの重さに堪えないていに、大革鞄を持った胸が、吐呼吸といきを浪にく。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヘンデルはいきなりスターの胴中どうなか引抱ひっかかえると、窓から往来へ放り出そうとした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
七つのとしであったが、筋向すじむかいの家に湯に招かれて、秋の夜の八時過ぎ、母より一足さきにその家の戸口を出ると、不意に頬冠ほおかむりをした屈強な男が、横合よこあいから出てきて私を引抱ひっかかえ、とっとっと走る。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
気にかけないものだというと、瞽女ごぜ背負しょった三味線箱、たといお前がわらづつみの短刀を、引抱ひっかかえて歩行あるいた処で、誰も目をつけはしないもんだが。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うして置けば手懸てがかりも付くまいと、今度はその死骸を引抱ひっかかえて行って、一ちょうばかり先の小川のほとりへ捨てて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒婆くろばばが家に馬を繋いだ馬士まごで、その馬士、二人の姿を見ると、がすなと突然いきなり、私を小脇に引抱ひっかかえる、残った奴が三人四人で、ええ! という娘を手取足取てとりあしとり
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、たとえば地蔵様の前に地獄の絵の生首を並べたさまに、うなじ引抱ひっかかえた、多津吉の手を、ちょっとげて、背いてひねった女の唇から、たらたらと血がこぼれた。
かつ散るくれないなびいたのは、夫人のつまと軒のたいで、鯛は恵比寿えびす引抱ひっかかえた処の絵を、色はせたが紺暖簾こんのれんに染めて掛けた、一軒(御染物処おんそめものどころ)があったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源助、宮浜の児を遣ったあとで、天窓あたま引抱ひっかかえて、こう、風の音を忘れるようにじっと考えると、ひょい、と火をるばかりに、目に赤く映ったのが、これなんだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝をめて、——起身たちみの娘に肩を貸す、この意気、紺絣こんがすり緋縅ひおどしで、しんのごとき名将には、勿体ないようですが、北のかた引抱ひっかかえたいきおいかった、が、いかに思っても
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コオトの背中を引抱ひっかかえて、身体からだおしにグサと刺した。それでも気が上ずったか、頭巾の端を切って、咽喉をかすって、剃刀のさきは、紫の半襟の裏に留まったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(さあ、私にいてこちらへ、)と件の米磨桶こめとぎおけ引抱ひっかかえて手拭てぬぐいを細い帯にはさんで立った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引抱ひっかかえて立った、小脇の奉書包は、重いもののように見えた。宗参の脊が、すっくと伸びると、熨斗のしの紫の蝶が、急いで包んだ風呂敷のほぐれめに、霧を吸って高くひるがえったのである。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きそこだ、直きそこだ。)と、いかさま……川端の料理屋ででも飲んでおいでなさったという御様子で、直ぐ、お引抱ひっかかえになりますとな、可なり持ちおもりがするんでやすから
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かの石の鳥居まで、わが家より赴くには、路のほどいとはるかなりと思いしに、何事ぞ、ただ鼻の先なる。宮の境内もまことに広からず、引抱ひっかかえて押動かせし百日紅ひゃくじつこうも、肩より少し上ぞこずえなる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小脇に威勢よく引抱ひっかかえた黒塗くろぬり飯櫃めしびつを、客の膝の前へストンと置くと、一歩ひとあしすさったままで、突立つったって、じっと顔を瞰下みおろすから、この時も吃驚びっくりした目を遣ると、両手を引込めた布子の袖を、上下に
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時お妙は、主税の蝙蝠傘を引抱ひっかかえて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)