嫌味いやみ)” の例文
そう云った口紅、頬紅の嫌味いやみたらしいお婆さんが青年ボーイの手に何枚かの銀貨を渡すと、彼は帽子を脱いで意気地なくペコペコした。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、逸作達が批判的に見る世の子供達は一見可愛かわいらしい形態をした嫌味いやみあくどい、無教養な粗暴な、かもやり切れない存在だ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とづけ/\嫌味いやみを浴びせかけるので、気の弱い夫人達は、蝸牛まひ/\つぶりのやうにたての丸髷を襟のなかに引つ込めてしまひたくなる。
即ち、ピアノの部分を、わざと声部と食い違わせて効果を出そうとしているが、これはしばしば試みられることであるにしても、甚だ嫌味いやみだ。
「顏だつて一種獨特よ。頬がこけてやつれてるけど、私はきなの。丈夫になつて元氣が出て來れば、きつと嫌味いやみのない顏になると思ふわ。」
即ち感情を起さしめたその事実景色をうたわしめるのである。そういう句には陳腐なものもあり平凡なものもあるが嫌味いやみを感ぜしめるものはすくない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
丁度往時むかし故郷の広い楽しい炉辺ろばたで、ややもすると嫌味いやみなことを言う老祖母おばあさんを前に置いて、碌々ろくろく口もかずに食った若夫婦の時代と同じように
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芳幾よしいくいた写真画と云ふ物は、あれと類を同じくしてゐたが、求める所が鄙俗ひぞくなだけ、かへつてあれ程嫌味いやみはない。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この点においてはクリストフも観客の一人だった。社会問題の理屈家らは、彼には嫌味いやみなものに思われた。しかし彼は他人を観察して面白がっていた。
「さあ、悪縁と思えば辛抱の仕様もある、わしもお前からさんざんの嫌味いやみを並べられ、人でないようにこき下ろされても、悪縁と思えばこそ何も言わぬ」
フィジー人はその最愛の妻すら、少しく嫌味いやみを覚ゆればたちまち殺して其肉を食うと云う。又タスマニヤ人は其妻死する時は、其子までも共に埋めて平然たる姿なりと。
雌に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
嫌味いやみを言おうと思っているのか、ばかばかしい、そんなことでもすれば別れるのにいい機会がとらえられるというものだと私は思っていましたが、賢女ですもの
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
随分嫌味いやみな奴だと思っていたが、また現れればいいと思うようになり、その嫌味な奴が出て来ないと淋しいという事になって来た、幸いにも彼は出世してくれたので
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
巴里パリ仕込みと云うところなどは微塵みじんもない代りには、嫌味いやみのない、堅実な会社員型であった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かと思ふと茶屋女のやうな、嫌味いやみに意氣がツた風をして、白粉をこツてり塗りこくツて、根津や三崎町あたりの小芝居に出てゐる役者の噂をしてホク/\してゐることもあツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
所詮は鴎外の諦めても諦らめられぬ鬱悶を消する玩具であろう。不平もあれば皮肉もある。嫌味いやみも交る。しかしそこには野趣がある。鴎外はここではじめて胸襟きょうきんを開いて見せる。
もう嫌味いやみたっぷりに、——高津神社さん境内けいだいにある安井稲荷いなりは安井さん(安い産)といって、お産の神さんだのに、この子の母親は安井さんのすぐ傍で生みながら、産の病で死んでしまったとは
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
二葉亭を何といったらかろう。小説家型というものをあながち青瓢箪的のヒョロヒョロ男と限らないでも二葉亭は小説家型ではなかった。文人風の洒脱しゃだつな風流通人つうじん気取きどり嫌味いやみ肌合はだあいもなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その様子は彼女の邪慳じゃけんな様子よりもなおいっそう嫌味いやみなものであった。
氏は物語の合間合間、自分の正しいことを力説したが、今から考えてみると、その無闇むやみ激昂げっこうや他に対する嫌味いやみなまでの罵倒ばとうも、皆自殺する前の悲しい叫びとして、私には充分理解できる気がする。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
アコーディオン・プリーツのスカートは嫌味いやみだが、服も、靴も、アクセサリーも、みなホンモノで、三流クラス以下のファッション・モデルなどは、足もとにも寄れないほど、かっこうをつけている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あとで嫌味いやみをいったが、十月の冬の月は、皎々しろじろえ渡っていた。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
揶揄からかったのは十八九のどこと無く嫌味いやみな女であった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わけて感情を口に出すのを敬蔵は絶対にけた。そういうことは嫌味いやみとして旧東京の老人はついにそれに対する素直な表現欲を失っていた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その笑い方はすこし無作法ではあるが、包み隠しの無いところは嫌味いやみの無い面白い若者だ。すぐに懇意に成れそうな人だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
クリストフから見ると、それはたまらなく退屈なもので、冷淡乾燥で、嬌媚きょうび衒学げんがくを事としてる嫌味いやみなものだった。
あちらの御新造はまたあがろうともなさらず、悪丁寧わるでいねい嫌味いやみのありったけを並べて御出でなさる始末しまつなんです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
随分嫌味いやみな奴だと思っていたが、また現れればいいと思うようになり、その嫌味な奴が出て来ないと淋しいという事になって来た、幸いにも彼は出世してくれたので
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
嫌味いやみなことをいいながら突っかかって来るから『お萩さんをどうした』って詰め寄ると、いきなり力任せにあっしを突き飛ばすじゃありませんか——背後うしろは大川で後がねえ
書いた当人はそれほどの気で書いたのではなくても、読む時に音が強くて、言葉の舌ざわりがなめらかでなく嫌味いやみになるものです。これは貴婦人もするまちがった趣味です。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この頃若旦那とこいさんとはよく痴話喧嘩げんかをする、そんな時に若旦那が「三好」と云う名を口にして嫌味いやみを云っておられるのを、たびたび聞いた、何でも神戸の人間らしいが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
七兵衛はジロリと紙屑買いの面を見ると、紙屑買いは嫌味いやみな笑い方をして
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど彼は、正しくないこともしばしばあり、乱暴であり嫌味いやみであることもあった。彼は彼女に許しを懇願した。罪は彼の愛そのものにあったのだ。
嫌味いやみな話ばかりよなし。この節、街道にろくなことはない。わけのわからないお武家様と来たら、ほんとにしかたあらすか。すぐ刀に手を掛けて、おどすで。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
嫌味いやみなことをいひながら突つかゝつて來るから『お萩さんをどうした』つて詰め寄ると、いきなり力任せにあつしを突き飛ばすぢやありませんか——背後うしろは大川で後がねえ
品子がこの猫の身柄みがらについて福子に嫌味いやみな手紙を出したり、塚本を通してあんなに執拗しつッこく頼んだりした動機と云うものを、一寸ちょっと説明しておかなければならないのであるが、正直のところ
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
米友は調戯からかっているのでもなければ嫌味いやみを言っているのでもない、またそういうことの言える人間でもないのであって、事実、お玉が着物を着換えようとしてそこへ取落したものがあったのです。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『琴の音も菊もえならぬ宿ながらつれなき人を引きやとめける。だめですね』などと言ってまた『いい聞き手のおいでになった時にはもっとうんと弾いてお聞かせなさい』こんな嫌味いやみなことを言うと
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
復一は自分ながら嫌味いやみな書きぶりだと思ったが仕方がなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは衒学げんがく的で、冗漫で、古典的で、叙情的で、気取りすぎた、嫌味いやみたらしい、下等なものであって、外国的な調子をもってるように思われる、駄法螺だぼら穿うがちや露骨や機知などの混和だった。
芸道に精進しょうじんせんとならば痛さ骨身にこたえるとも歯をいしばってしのぶがよいそれが出来ないなら私も師匠を断りますとかえって佐助に嫌味いやみを云った爾来じらい佐助はどんなに辛くとも決して声を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのために専心机にむかおうとすることから言っても節子を通してちょいちょい聞えて来る義雄兄の嫌味いやみを避けようとすることから言っても、彼はしばらく節子から離れていようと考えるように成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
押し切ったところが、嫌味いやみがなくて好ましくもある。
前者よりはるかに精練されてるとともに、またより嫌味いやみなものであった。
嫌味いやみめかして云つたものだが、十年の間も一緒に暮らしてゐたとすれば、たとひ一匹の猫であつても、因縁の深いものがあるので、考へやうでは、福子や品子より一層親しいとも云へなくはない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それほど彼の言うことは自分の耳にさえ嫌味いやみに皮肉に聞えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「僕リヽーとは屁までうた仲や」などゝ、嫌味いやみめかして云つたものだが、十年の間も一緒に暮らしてゐたとすれば、たとひ一匹の猫であつても、因縁の深いものがあるので、考へやうでは
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「僕リリーとは屁までぎ合うた仲や」などと、嫌味いやみめかして云ったものだが、十年の間も一緒に暮らしていたとすれば、たとい一匹の猫であっても、因縁の深いものがあるので、考えようでは
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雪子ちゃんは幸子ちゃんの子ばかり可愛がって内の子供をさっぱり可愛がってくれないと嫌味いやみを云われたことがあって、返答に困ったのであるが、正直のところ、雪子はちょうど悦子ぐらいの年頃の
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)