如才じょさい)” の例文
この戦争の結果、尚寧しょうねい王以下百余名は捕虜となって上国し、如才じょさいなき薩摩の政治家は思う存分にその主なき琉球を経営致しました。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
それから十市とうちの作さんという楊梅売りのとぼけたようで如才じょさいのない人物が昔のわが家の台所を背景として追憶の舞台に活躍するのである。
郷土的味覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「すっかり判りました。ようがす。わたしが出来るだけ調べてあげましょう。如才じょさいはあるめえが、当分は誰にも内証にして……」
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんな折の氏の家庭こそ平常とは打ってかわって実に陽気で愉快ゆかいです。その間などにあって、氏に一味ひとあじの「如才じょさいなさ」がいます。
がんりきの野郎が如才じょさいなく、携えて来たお角の朱羅宇しゅらう長煙管ながぎせるを取って、一服つけて、それを勿体もったいらしく白雲の前へすすめてみたものです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とん、とん、とん……とその襟元えりもとへ二階から女の足音がすぐ降りて来た。如才じょさいなく彼のそばへ手拭てふきやらうがわんなど取り揃えて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、二ねんのちには、天才てんさいは、まったくみにじられて、あとかたもなく、如才じょさいのない、きざな一商人しょうにんができあがるでありましょう。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よく肥った三十五六の男で、愛嬌のある顔、要領の悪い口調、一応はボーッとしたように見えて、思いのほか如才じょさいがないところがあります。
「いや、あゝいう人情味のない人ですよ。そこへ行くと、立花さんあたりは如才じょさいありません。人間は誰しもあゝあって貰いたいと思いました」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
豌豆えんどう隠元いんげんは畑に数珠じゅずりでも、もいでて食うひまは無い。如才じょさいない東京場末の煮豆屋にまめやりんを鳴らして来る。飯の代りにきびの餅で済ます日もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
深川の櫓下やぐらしたに居たって、名前なめえはおしずさんと云って如才じょさいねえ女子あまっこよ、年は二十二だと云うが、口の利き様はうめえもんだ、旦那様が連れて来たゞが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると年老いた師匠が、鶯でないところが面白いんですよ、と言ったのは、必ずしも遊芸の師匠の如才じょさいないところから、そう云ったのでもあるまい。
(新字新仮名) / 岩本素白(著)
「……佐原屋のことだから、如才じょさいなく船宿へでも駈けこんだこッたろうが、それにしても、この降りじゃ……」
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこで俊助もむを得ず、曖昧あいまいな微笑を浮べながら、角帽を脱いで黙礼した。が、藤沢は、俊助の世慣れない態度とは打って変った、いかにも如才じょさいない調子で
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこは例の附け届けを十分にたっぷり薬をかしてあるので断りもならず精々如才じょさいなくあつかっていた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なる程、おっしゃる意味はよく分りますがね」署長は中途で引取って、「その今朝の男の靴跡も如才じょさいなくしらべてあるんです。併し、これとはまるで違っていましたよ」
見かけによらず如才じょさいない老爺は紅葉を娘の前へだし、これごろうじろ、この紅葉の美しさ、お客さまがぜひお嬢さんへのおみやげにって、おお首おって折ったのぞなどいう。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いかにも義姉に取り入ろうとするような声で、それが俺にありありと感じられるのはいやだったが、同時に、波子の奴、なかなか如才じょさいがないと、そこに一種の安堵あんどもあった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ことに女の利害を代表する岡本の方は、藤井よりも余計この必要を認めなければならない地位に立っていた。その上岡本の叔父には普通の成功者に附随する一種の如才じょさいなさがあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今一人は年廿五六小作りにして如才じょさいなき顔附なり白き棒縞の単物金巾かなきんのヘコ帯
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なかなか美男子で、如才じょさいなく頭のはたらく男なのだが、しかし、ほんの十六さいの少年にすぎないわたしでさえ、この男には何かしら油断のならぬ、うさんくさいところがあるような気がした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
如才じょさいなく、お袋に土産物みやげものを渡すが否や、いっぱしの馴染なじみでもあるかのように、早くも三畳のへ上り込んでしまったが、それでもさすがに気が差したのであろう、ふところから手拭を取出して
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「そうか。そいつあ済まねえのう。なにも御難と諦めてくんな。じゃ、借りるぜ——おうっ、勘、彦、用が済んだら佐平次どん方へ——待ってるぜ。彦、如才じょさいあるめえが八百駒あやんわりな。」
如才じょさいなく立ちまわれよ、と編輯長に言われて、ふだんから生真面目の人、しかもそのころは未だ二十代、山の奥、竹の柱の草庵に文豪とたった二人、囲炉裏いろりを挟んで徹宵お話うけたまわれるのだと
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
世馴よなれた人の如才じょさいない挨拶あいさつとしか長吉には聞取れなかった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「その点如才じょさいはございません」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
道をくような風をして如才じょさいなく話しかけて、となりの家ではどこの魚屋さかなやから魚を買っているかということを半七は聞き出した。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
如才じょさいない秀吉は、それでも折々、むかし友達には気をつかい、おいの秀次に、勝入のむすめをめとり、会えば、ことばの端にも
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
店で働いているだけに、如才じょさいのないことはお縫と反対で、敷居際に手を突いて、支配人と平次の顔を等分に見上げました。
しかしながら、がんりきはさすがに如才じょさいないところがあるから、金助のように見てくれだけで頭ごなしに米友を侮辱するようなことはありません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はじめは多少容態をつくろっていた近所のおかみさんたちや気取ってた娘たちも、如才じょさいのない母の面倒の見方や、愛想のよい褒め言葉にいつの間にか
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だんなさま、このとおりくもひとつない上天気じょうてんきでございます。このぶんですと天気てんきがつづくだろうとおもいます。」と、如才じょさいない植木屋うえきやは、こたえました。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と牧野さんは年配丈けに如才じょさいない。表装をしないでやったら手拭き紙にした奴があったとは仰有らなかった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
井生森又作は如才じょさいない狡猾こうかつな男でございますから、是だけの宿屋に番頭も何もいないで、貧乏だと悟られて、三千円の金を持って帰られてはいけないと思って
それからと云うもの、時平は宮中で国経と顔を合わすと、急に如才じょさいなく挨拶あいさつするようになった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人柄は女性的で如才じょさいのない社交家であるのに反して、熊浦氏はただジアナリスティックな虚名を持っている外には、地位もなく資産もなく、妻子さえない全くの孤独者で
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吉見さんには時々逢うこともありますが、色のあさ黒い、人柄のいい、なかなか如才じょさいない人です。そのかわり随分道楽もするそうですが……
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、彼は同時に、世間の如才じょさいない、刀鍛冶のように、金次第のいわゆる御差刀料おさしりょうなどは作れなくなってしまった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがに、如才じょさいのない植木屋うえきやも、ちょっとしたはなしがこんなことになるとはおもいませんでした。こういわれても、返事へんじすることができなかったのであります。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは三十五六の柄の大きい、ぼーっとした感じの男ですが、調子にはなかなか如才じょさいないところがあります。
単に如才じょさいないだけではなく、この提案が成功すれば、二重の役得があるという見込みが十分でしたから、御意によっては、鹿島へ行く舟のへさきを即座に変えて
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もし春琴が今少し如才じょさいなく人にへりくだることを知っていたなら大いにその名があらわれたであろうに富貴ふうきに育って生計の苦難を解せず気随気儘きずいきまま振舞ふるまったために世間から敬遠され
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこへお客さんが来たものだから、親方は如才じょさいなく応対を始めた。しかしその間もチョキ/\/\と鋏は休ませない。口八丁手八丁だ。お客さんを職人にまかせて置いて、又話し出す。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
くにと申す女中がございまして、器量人並にすぐれ、こと起居周旋たちいとりまわし如才じょさいなければ、殿様にも独寝ひとりねねや淋しいところから早晩いつか此のお國にお手がつき、お國は到頭とうとうめかけとなり済しましたが
しかし息子は、父親の神の遥々の訪れをそれと知るや、直ちに翁を家の中へ導き入れ、紹介ひきあわせたその妻もろとも下へも置かない歓待に取りかかった。そうしながら祭の儀も如才じょさいなく勤めた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私がモジモジしているのを見ると、河野は如才じょさいなく声をかけました。私は普通なら遠慮すべき所を、どうやら事件に関する話しらしいので、好奇心を圧え難く、いわれるままに部屋の中へ入りました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
聞いたかどうだか突き留めて来てくれ。如才じょさいもあるめえが、本当になぐられたのか、出たらめの事を云うのか、よく念を押して訊きただしてくれ
「そなたも、藤吉郎と同じように如才じょさいがないの。もう洲股へ引き移るものと、いつの間にやら決めていやる」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう少し如才じょさいなくびをしたら、或いはそれで負けてもらえたかも知れぬ、またこの店の亭主が、もう少し情けを知った人ならば、それで我慢がまんしたかも知れぬ、しかしながら
如才じょさいのない平中はかねてからそれに眼をつけ、巧く此の児に取入っていて、或る日此の児が本院の館へ来、母が住んでいる寝殿の、西の対屋たいのやで遊んでいるところへ行き通わして
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)