)” の例文
それは、驢馬が帰って来ながら、ありったけの声を振絞って、なに平気だ、なに平気だと、声がれるほどき続けているのである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
千枝松はのどれるほどに藻の名を呼びながら歩いたが、声は遠い森に木谺こだまするばかりで、どこからも人の返事はきこえなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「松山の伯父さんの病気見舞いといって、出てきたんですけれど」ふみ江はれたような声でぐずっている子供をすかしながら答えた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いまや、お慈悲じひ、お慈悲じひこゑれて、蒋生しやうせい手放てばなしに、わあと泣出なきだし、なみだあめごとくだるとけば、どくにもまたあはれにる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それへ猛撃する甲軍は、いくら指揮の声をらしてみても、いたずらに、惜しむべき将士を、効果なく死楯しにだてとしてしまうだけに過ぎない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東西両国は野次馬の山、役人が声をらして追い散らしますが、はえのように集まって来る群衆は、手の付けようもありません。
その古趣と不潔と野蛮と俗臭の小首府、神様と文明に忘れられたLISBOAが、こうおりぶ油くさいれ声を発して僕の入市に挨拶した。
もうよくなったから、今夜はゆくつもりだったと云ったが、そう云いながらも軽いせきをするし、すっかり声をらしていた。
もう此頃になると、山はいとわしいほど緑に埋れ、谷は深々と、繁りに隠されてしまう。郭公かっこうは早く鳴きらし、時鳥ほととぎすが替って、日も夜も鳴く。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「もう呼び出してあるのよ。あたし声がれて、咽喉のどが痛くって話ができないからあなた代理をしてちょうだい。聞く方はあたしが聞くから」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良人はそれを見るとややれたような中年男の声に、いたわりの甘味をふくめて、「ははあ」と軽く笑って云うのでした。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それが大変うまく、緩急をつけて、なかなかちょっと誰にでもはやれない地唄の中のゆるし物をれた渋い声で唄って来る。
京のその頃 (新字新仮名) / 上村松園(著)
少しは眠れ、食欲もあり、時々本を読み、読んだことの書き込みをし、友だちに会うことを好むが、衰弱のために声までれ、会話がしにくい。
少しは眠れ、食欲もあり、時々本を読み、読んだことの書き込みをし、友だちに会うことを好むが、衰弱のために声までれ、会話がしにくい。
船頭と親仁おやじは声をらして乗客を一人一人、船の底へ移します。船の底の真暗な中へ移された二十三人の乗合は、そこで見えないかおをつき合せて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫婦と覺しき男女なんによおもてをのみ飾りたる衣をまとひて板敷の上に立ちたるが、客をぶことの忙しさに、聲は全くれたり。
階下の茶の間ではその日午過ぎから高声で主婦さんがれた声の男と話している何かの話のつづきをまだ喋っていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
床の上へ坐っているのは、業病ごうびょうも末になったのであろう。顔は崩れ、声はれて、齢さえも定かでない老人であった。
男女の相違こそあれ、同じ精神状態に陥って、おなじ苦しみを体験させられている私は、心の底までそのれ果てた泣声に惹き付けられてしまった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ギックリして、声をれさせながら、鷲尾は自分のネクタイが歪み、ズリ落ちそうな帽子の下から、蓬々ぼうぼうの頭髪がハミ出してるのにあわてて気がついた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼はれてはいるが、よくひびく、量の多い声を持っていた。彼のしゃべることは、窓硝子が振える位いよく通った。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
役人は、いくら声をらして訊問じんもんしても、相手がまるでこちらを馬鹿ばかにしてるやうに、返事をしないので、威厳を損はれたと思ひ、腹を立ててゐたのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
最後に残った一人の山窩、横っ飛びに逃げながら、声をらして叫んだのは、仲間を呼びに行くのだろう。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこかでれたようなき声がきこえたかと思うと、老いさらばえた一匹の犬が近づいて来るのでした。
誰もそれをとがめるものがない、小鳥のように私は自由だ。歌い、歌い、声のれるまで歌い続ける。
勝栗のように頭が禿げて、声が江戸前に渋くれて、鼻唄ひとつが千両だった。江戸もん同士がひどく気さくで、御代は太平五風十雨ごふうじゅううで、なんともいえず、嬉しかった。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
後から後から雪崩なだれを打って、旅客が詰めかけてくる。次長が声をらして、必死にデッキの外へ追いやっている。探偵の一人が張り番に立って、やっと騒ぎが静まってきた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と声をらしての制止も、はやり立った後陣の耳に入るわけがない。われ先にと進む兵たちに押され押された先陣の兵は、悲鳴をあげながら川に落ちては次々と溺れていった。
人の足音や話声や、すずおとや、相図の笛が聞えるだけである。最初は女に新聞を読ませて聞いたが、声がれて来たのでめさせた。二人とも都の住いへ帰るのが嬉しかった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
問屋の帳場が揚荷の帳付ちょうつけ。小買人が駆廻る、仲買が声をらす。一方では競売せりが始まっていると思うと、こちらでは荷主と問屋が手をめる。雑然、紛然、見る眼を驚かす殷賑いんしん
しかも、新しい名取りの声は、ひでりの後の古沼のように惨めにもれてしまった——。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
男は、かすかに現われた安堵の表情を、強いて隠すようにすれた小声でいった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
開いたりしめたりするとびらの音、肱金ひじがねの上にきしる鉄門の響き、衛兵らの騒ぎ、門監らのれた叫び声、中庭の舗石しきいしの上に当たる銃の床尾の音、それらのものが彼の所まで聞こえてきた。
白皙はくせきの青年はほおを紅潮させ、声をらして叱咤しったした。その女性的な高貴な風姿のどこに、あのような激しさが潜んでいるのか。悟浄は驚きながら、その燃えるような美しいひとみに見入った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼女の足はよろめき、胸ははげしい呼吸に波打ち、声はすでにれがれであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ている着物からしてどうもはっきりせず、女の上っ張りによく似ているし、頭には田舎の邸婢やしきおんながよくかぶるような頭巾をかぶっている。が、声だけは、女にしては少しれているようだ。
そこは、二十七か国語が話されるという、人種の坩堝るつぼ。極貧、小犯罪、失業者の巣。いかに、救世軍声をらせどイースト・リヴァの澄まぬかぎり、ここのどん詰りデッド・エンドは救われそうもないのだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三百人も四百人も集つて、声をらして歌ひながら、雨乞踊を踊つてゐますと、そこへ向ふの方から、青い物をになつた男が、一人やつて来ました。よく/\見ると、それは馬鹿七でありました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
もっとグン/\突込んで、恰度警察で被告を調べるように、少しでも前後矛盾する所があれば、声をらし腕を振り上げてゞも問い質して呉れなくてはならない。断じてそんな事はありません。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
と正次郎君は一かどの手柄を立てた積りだろうが、声をらしていた。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遣手やりてといいますか、娼妓の監督をする年寄としよりの女が、意見をしたり責めたり、種々手を尽しても仕方のない時は、離れへ連れ込んでしばって棒か何かで打つのだそうで、女の泣く声がれがれになる頃
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
青年団員は、声をらして、沈着な警報をつづけた。
空襲下の日本 (新字新仮名) / 海野十三(著)
左膳のれ声が、またもや森の木の葉をゆすった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
れし説明者こそ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
師走しわすの風の寒い一夜を死人のふところに抱かれていた赤児は、もう泣きれて声も出なかったが、これはまだ幸いに生きていた。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まる四日間というもの、声もれ、四肢も離ればなれになるばかり、東西両門へ力攻したが、さしたる損害も与え得なかった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら咽喉のどしぼり声をらして怒鳴どなってみたってあなたがたはもう私の講演の要求の度を経過したのだからいけません。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かの女もむす子も貧しくて、食べるものにも事欠いたその時分、かの女は声を泣きらしたむす子を慰め兼ねて、まるで譫言うわごとのようにいって聞かした。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
厚い大きな唇がすばらしく早く動いて、調子の狂った楽器のような、ひどくれた声が止めどもなくほとばしり出た。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
裏手の貧乏長屋で、力のない赤子のき声が聞えて、乳が乏しくて、脾弛ひだるいようなれた声である。四下あたりはひっそとして、他に何の音も響きも聞えない。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)