取付とりつ)” の例文
唄の声はまさしくお葉であった。重太郎は枯柳にひし取付とりついて、酔えるように耳をすましていた。雪はいよいよ降頻ふりしきって、重太郎も柳も真白まっしろになった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
取付とりつきの悪い事なら日本一だろう。こんな男には何でも構わない。殴られたらなぐり返す覚悟でポンポン云ってしまった方が、早わかりするものだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、どんな熱病に取付とりつかれてもきつと死んでくれるな。長吉ちやうきち、安心しろ。乃公おれがついてゐるんだぞと心にさけんだ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と云いつゝ短刀を右手のあばらへ引き廻せば、おいさは取付とりつなげきましたが、丈助は立派に咽喉のど掻切かききり、相果てました。
晩成先生もさすがにあわごころになって少し駆け出したが、幸い取付とりつきの農家はすぐ間近まぢかだったから、トットットッと走り着いて、農家の常の土間へ飛び込むと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ぶくろ取付とりついた難破船なんぱせんおきのやうに、提灯ちやうちんひとつをたよりにして、暗闇くらやみにたゞよふうち、さあ、ときかれこれ、やがて十二時じふにじぎたとおもふと、所爲せゐか、その中心ちうしんとほぎたやうに
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴方あなたは一生涯しやうがいだれにも苛責かしやくされたことく、健康けんかうなることうしごとく、嚴父げんぷ保護ほごもと生長せいちやうし、れで學問がくもんさせられ、それからしてわりやく取付とりつき、二十年以上ねんいじやうあひだも、暖爐だんろいてあり
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
僕の五官は疫病えやみにでも取付とりつかれたように、あの女子おなごのために蹣跚よろめいてただ一つの的をねらっていた。この的この成就はやみうち電光いなずまの閃くような光と薫とを持っているように、僕には思われたのだ。
わしも人に損を掛けられて仕様がねい、何かすべいと思っていると、段々聞けば県庁が前橋へ引けるという評判だから、此所こゝ取付とりつかなければなんねいから、洋物屋ようぶつやをすれば
が、幸いに彼の身体には例の毛綱けづなが結び付けてあるので、市郎は岩からちる途端に、早くも綱に取付とりついてずるずると滑りちると、二三げんにして又もや扁平ひらたい岩の上にとまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴方あなたは一生涯しょうがいだれにも苛責かしゃくされたことはく、健康けんこうなることうしごとく、厳父げんぷ保護ほごもと生長せいちょうし、それで学問がくもんさせられ、それからしてわりのよいやく取付とりつき、二十年以上ねんいじょうあいだも、暖炉だんろいてあり
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
目立たぬやうに取付とりつけてある生垣の間の木戸から出入をするのである。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
それから取付とりついてこれだけになったのは存じて居りますし、また助右衞門のうちは其の金を失ってから微禄びろくいたして、今は裏家住うらやずまいするようになったが、可愛相かあいそうにと敵同志かたきどうしでございますが