割込わりこ)” の例文
ひとひととのあひだすこしでも隙間すきま出来できるとるとあるいてゐるものがすぐ其跡そのあと割込わりこんで河水かはみづながれと、それにうつ灯影ほかげながめるのである。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
えねえのにさうだに押廻おしまはすなえ」瞽女ごぜあといて座敷ざしきはしまで割込わりこんで近所きんじよぢいさんさんがいつた。わか衆等しゆらたゞ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しやちくぢらなかへ、芝海老しばえびごとく、まれぬばかりに割込わりこんで、ひとほつ呼吸いきをついて、橋場はしば今戸いまど朝煙あさけむりしづ伏屋ふせや夕霞ゆふがすみ、とけむながめて、ほつねんと煙草たばこむ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼もまた死人を見たいと云う、人間に特有な奇妙きみょうな、好奇心にとらわれてしまった。彼は幾何いくばくかの強力ごうりきをもって、群衆の層の中へと、自分の身を割込わりこませて行ったのである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
内閣割込わりこみ運動のような秘密な会合だとその席へは通れないが、普通の打ち合せで、それから晩餐ばんさんでもいっしょにやると云うようなことであったら、通さないこともないだろう。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
本來ほんらいなら、別行べつぎやうしたゝめて、おほい俳面はいめんたもつべきだが、惡口わるくち意地いぢわるいのがぢき近所きんじよるから、謙遜けんそんして、二十字にじふじづめのなかへ、十七字じふしちじ割込わりこませる。いはく、千兩せんりやう大禮服たいれいふく土用干どようぼし
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道子みちこ自分じぶん身近みぢか突然とつぜんしろヅボンにワイシヤツををとこ割込わりこんでたのに、一寸ちよつと片寄かたよせる途端とたんなんとつかずそのかほると、もう二三ねんまへことであるが
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)