其方そのほう)” の例文
其方そのほうへ、石狩国石狩郡ノウチ、トウベツノ地一帯ノ貸付被仰付候事おおせつけられそうろうこと」と二行に書き、「明治四年六月、開拓使」と署名されていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
裁判官が再三注意を与えて、七、其方そのほうは火をつけたのではあるまい、火を運んで居て誤って落したのであろう、などというたかもしらぬ。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
だが、人いちばい無学の其方そのほう、よほど修養を心がけぬと、主人のわしが立身してゆく後にいて参れぬぞ。追いついて来い。懸命に勉強して
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其方そのほうは一種の眼光をそなえた人物であるから、さだめて異国へ渡ってから、何か眼をつけたことがあるだろう、それをつまびらかに申し述べよ』
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺したる事大膽不敵の擧動ふるまひなり伊勢屋方よりうつたへたる旅僧も同夜の事なれば是はなんぢ同類どうるゐなるべし殊更ことさら其方そのほうは金屋にて盜みし櫛を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
按摩佐の市、其方そのほうの師、漆検校の申すことに相違はないか、浪人原口作左衛門は禁断の死鍼を打たれて死んだのではなくて、日頃酒毒に身体からだ
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「いゝえ。其方そのほう何時いつ迄延ばして置いても構はないんですが、此方こつちの方をうかしないと困るのよ。東京で運動する方にひゞいてるんだから」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おお、其方そのほうか。」と、権右衛門は一方の眼を誇りひからせた。「先刻は大儀じゃ。姫も家来もこの通りじゃ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
或は善人だと思って居た者が、大悪人で有ったりする事実を知り、其方そのほうおおいに趣味を懐くことにりました。
探偵物語の処女作 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「おれは大丈夫だよ。其方そのほうは。」と言ったが、女はどちらでも構わないという顔をして聞返しもしなかった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「のう、お春どのとやら、其方そのほうは大そう舞の上手でおいでじゃそうな。御苦労ながら、何ぞ一つ見せてたも」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
我等われら今度こんど下向候処げこうそろところ其方そのほうたい不束之筋有之ふつつかのすじこれあり馬附之荷物積所うまつけのにもつつみしょ出来申候しゅったいもうしそろつき逸々はやばや談志之旨だんしのむね尤之次第もっとものしだいおおきに及迷惑申候めいわくをおよぼしもうしそろよっ御本陣衆ごほんじんしゅうもって詫入わびいり酒代さかて差出申候さしだしもうしそろ仍而件如よってくだんのごとし
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
綾子は顔をあかめて、「そんなら私は見合せよう、何ぞを見計らっての、其方そのほうがお伺いに参るように。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これと申すも、みな、其方そのほうごときよけいなやつが、横合いから飛びだして、壺を私せんとしたため
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其方そのほう儀、外夷の情態等相察すべしと、去る寅年異国船へ乗込むとがに依り、父杉百合之助へ引渡し在所において蟄居ちっきょ申付けうくる身分にして、海防筋の儀なおしきりに申しとな
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其方そのほうの志にめで、又家中の旧家の故を以って、特に清十郎にそのまま恩禄を下しおこう。
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「それともあくまで強情を張って、淀屋の独楽を渡さぬとなら、この場において其方そのほうを殺し、明朝八重を打ち首にする。……主税、強情は張らぬがよいぞ。独楽の在り場所を云うがよい」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其方そのほう儀、御勝手おかって御仕法立てにつき、頼母子講たのもしこう御世話かた格別に存じ入り、小前こまえさとし方も行き届き、その上、自身にも別段御奉公申し上げ、奇特の事にそうろう。よって、一代苗字みょうじ帯刀たいとう御免なし下され候。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方の指揮となれば其任いよいよ重く、必死に勤めけるが仕合しあわせ弾丸たまをも受けず皆々凱陣がいじんの暁、其方そのほう器量学問見所あり、何某なにがし大使に従って外国に行き何々の制度能々よくよく取調べ帰朝せば重くあげもちいらるべしとの事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其方そのほう斯様かような目に遭って無念に思わぬかな。」
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
其方そのほう塙江漢はなわこうかんとやらいう老いぼれの無役者むやくものに加担いたして、畏れ多くも、さきの黄門龍山公のご隠居所をうかがいに来た犬であろう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみのお調べによれば古金二千両、新金千両、そのほか太鼓判たいこばんの一分が俵に詰めて数知れず、たしかに其方そのほうの家屋敷の中に隠してあるに相違ない
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「よし、私も非人乞食になろう、——十次郎、其方そのほうは屋敷へ帰れ、高力の家は弟の秀長ひでながに立てさせるのだぞ」
代助はまた其方そのほうが勝手なので、いつ迄もばす様にと、あとからあとけてつた。ちゝも仕舞には持てあまして、とう/\、時に今日けふ御前を呼んだのはと云ひ出した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かすか唸声うなりごえが左の隅に聞えたので、彼は其方そのほうへ探って行くと、一枚の荒莚あらむしろが手に触れた。莚を跳退はねのけて進もうとすると、何者かその莚のはしを固く掴んでいるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其方そのほうからも前まえ頼まれておる筆幸ふでこう油御用あぶらごようの一件ナ、あれを一つ、この機会に心配してやろう。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「客人は只今ただいま裏門よりお帰りなされたゆえ、もはや其方そのほう達も休むがよい。大分更けた」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
突然進みて生田の腕を捕え大喝だいかつ一声に「法律の名に於て其方そのほうを捕縛する」と叱り附る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なんぞや決闘とは! ……猪之松、其方そのほうはわしについて剣道を学んだ者だったのう
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
抑〻そもそも其方そのほうだいそれた悪事を目企もくろみはじめたのは、いうまでもなく、龍山公のお血統ちすじの詮議を依頼されてからのこと。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さりとは無念の儀じゃ。もろもろの病いはおのれの心からいずるともいえば、其方そのほうたちも常に気を配って、父上の弱った心を引き立つるように努めねばならぬぞ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
成程なるほど、それは面白かろう、早速その手配をするように、万事は三文字紋弥、其方そのほうに申し付けるぞ」
ことによれば、あたまからしかばされるかも知れないと思つた。代助には寧ろ其方そのほうが都合がかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「わからぬことを申すな、其方そのほうの事情がどうあろうとも、お上の御法を曲げるわけには相成らぬ」
そのいわくありげな壺はこのにわかごしらえの父が、預かってやる。父と子と、仲よく河原の二人暮しだ。親なし千鳥の其方そのほうと、浮き世になんの望みもねえ丹下左膳たんげさぜんと、ウハハハハハ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
目科はすきも有らせず「なに珈琲館を出たのは六時頃だッたがバチグノールに人殺ひとごろしが有たので隣室の方と共に其方そのほうへ廻ッて夫故それゆえ此通このとおり」と言開く、細君は顔色にて偽りならぬを悟りし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ほほう、そなた程の美しい少人から恋われた女子は其方そのほうに劣らぬ仕合者じゃ。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ハテナ」自分がそう思った瞬間に、新井君が其方そのほうへ走り出はじめた。自分もわけがわからず走って行った。その灯に近かづいて見ると警官が五六人と、背広を着た、四五人の人がそこに居た。
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『ただし、不義、暴利は成らんぞ。正しく儲けろ。これから先も、他から領主の国入がある。祝事いわいごとがある、人心が一新する、随分、其方そのほうたちにはよい風向だ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「次第によっては助けてやるまいものでもないが、其方そのほうは何者だ、どうして斯様かようなことになった」
「木曾から、檜の良材が手に入った、其方そのほう一世一代の腕をふるって、等身の美人を彫って見ぬか」
しかも会見が済むとあとから屹度其方そのほうを考へる。さうして後悔する。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「これは、其方そのほうどもの主人か。はや召連れて、ご門前を退け。ぐずぐずいたしおると、用捨せぬぞ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのように恐れ入らんでもよい、実は今日は其方そのほうを上客にしたいくらい。いつもは伊太夫の雇人であるが、今日は位がついて来たのじゃ。例の品は持って参ったことであろうな」
「今からでも遅くはない、其方そのほうで引く気は無いか、今夜の始末は内密にしてやるぞ」
「僕がさつき昼寐をしてゐる時、面白い夢を見た。それはね、僕が生涯にたつた一遍逢つた女に、突然夢のなかで再会したと云ふ小説みた御話だが、其方そのほうが、新聞の記事より、聞いてゐても愉快だよ」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
好むことではない、何分にも、善鬼の我意はわしにも、めきれん。よんどころなく希望を容れたわけだ。——故に、其方そのほうとしては、兄弟子たりとも、毛頭、斟酌しんしゃくに及ばぬ。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しからば其方そのほうに道を教えた樵夫というのは何村の何の誰じゃとお尋ねがある、その時は、いやそれを聞こうとしているうちに、樵夫は山奥深く分け入って影も形も見えなくなりました
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
其方そのほうは、いずれの者じゃ、親共の商売、名前、ぐに申立もうしたてえ」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「わしの伜のいる所じゃ! 南町奉行所の仮牢じゃ。わしが参って、奉行の主計頭かずえのかみ、与力の東儀三郎兵衛、それに羅門塔十郎の三名をならべて説破せっぱいたすから、其方そのほうも立ち合え」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)