おれ)” の例文
何という賑やかさ華やかさだ。下水の掃除人がこの掃除口を閉め忘れてるのを幸いに、おれも少しこの賑やかな通りを散歩してみるかな
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「坊主。行って来い。おれが行くといのだが、俺はちと重過ぎる。ちっとのの辛抱だ。行って来い。行って梨の実を盗んで来い。」
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「おっと、待てよ。これは悴の下駄を買うのを忘れたぞ。あいつ西瓜すいかが好きじゃ。西瓜を買うと、おれもあ奴も好きじゃで両得じゃ。」
(新字新仮名) / 横光利一(著)
おれたびへゆこう。そしてゆきのない、いいくにはたらこう。かねがもうかり、おもしろいことがたくさんあって、いいらしができるだろう。
おかしいまちがい (新字新仮名) / 小川未明(著)
「だが、おれたちも一昨年おととし、去年は駄目だめだったじゃねえか。一日、足を棒にして歩いても一両なかっただもんな。乞食こじきでも知れてるよ」
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
すこしも乗客じょうきゃくわずらわさんようにつとめているおれか、それともこんなに一人ひとり大騒おおさわぎをしていた、たれにも休息きゅうそくもさせぬこの利己主義男りこしゅぎおとこか?』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おれは畜生を見違えちゃった。あいつは床屋じゃねえ、へびだ。ようし、錠前屋を呼んできて、今にしっぽに鈴をつけさしてやらあ。」
おれアなア、第一に、人をだしぬくってことが大きれえなんだ。女のことになりゃア、主も家来もねえというんなら、それもよかろう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
甲田は偶然その二人が話してるのを聞いた。一人は、おれは三日休んだ筈だと言つた。一人は俺もみんなで七日許り休んだ筈だと言つた。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おれに似て器用でもあるから、行く行くは相当の棟梁とうりょうにもなれようというような考えで、いよいよ両親は私を大工にすることにした。
A 馬鹿ばかつちやいかん。統計とうけい神聖しんせいだ。勝手かつて算出さんしゆつしてたまるもんか。それよりかきみおれ今度こんど年賀状ねんがじやう趣向しゆかうせてやらう。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「此の人は何か自分に投げつけに来た。おれはひよつとするとその為めにもだえねばならぬかも知れぬ。が、それでも俺は仕合せだ……。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それぢやお前は、おれは馬鹿でお前が怜悧れいりだといふんだね。よろしい、弱い者いぢめといふんなら、おれは、ま、馬鹿になツてねるとしやう。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
(この社は隅から隅までおれの所有に属しているのだ)といったような、例えば、牧場主が自分の牧場を見舞う時のような得意さと
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
これ古服は黒し、おれは旅まわりの烏天狗で、まだいずれへも知己ちかづきにはならないけれど、いや、何国いずこはてにも、魔の悪戯いたずらはあると見える。
「いけねえいけねえ。おれ明日あしたっから又、台湾館の前に突立って怒鳴らなくちゃならねえ約束がして在るんだ。放してくれ放してくれ」
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ロミオ (炬火持に對ひ)おれ炬火たいまつれい。おれにはとてかれた眞似まね出來できぬ。あんまおもいによって、いっあかるいものをたう。
「へん。貴様きさまら三びきばかり食いころしてやってもいいが、おれもけがでもするとつまらないや。おれはもっといい食べものがあるんだ」
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いけのきれいななかへ、女蛙をんなかへるをうみました。男蛙をとこかへるがそれをみて、おれのかかあ は水晶すいしやうたまをうんだとおどあがつてよろこびました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「節ちゃんは苦労して、以前まえから比べるとずっと良くなった。何だかおれはお前が好きに成って来た——前にはそう好きでもなかったが」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
めくらの上にツンてきときたひにゃ、それこそ、でくのぼうよりなッちゃあいねえからな。ええオイ竹童……おッと、こいつはおれがまちがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氏は悲痛な声を出して「今は子供のことなんか考えていられない。そんな場合でない。自分の苦痛でおれは一ぱいだ。子供には健康がある」
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「馬鹿! 一升餅くらいで、一里からの雪路ゆきみち、吉田様まで、誰が行くものか。おれの欲しいの、餅なんかじゃねえ。銀のさかずきを欲しいのだ。」
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「沼南の大臣になるならおれが第一番に反対運動する、国家の政治が沼南のお天気模様で毎日グラグラ変られてたまるもんか、」と。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「じゃ、聴いて貰いますか」そう云って横瀬は、たばこを一本、口にくわえた。「これは、おれの知っている、或る男の、素晴らしい計画なんだ。 ...
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何をするか、危ないじゃないか、と彦太郎が云うと、小父さん、何か面白いお話をしておくれよ、おれわざわざ聞きに来たんだ、と云った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あたったら?……彼奴あいつの指がちょっとしまると、それでおれの生命がなくなる……すると……そうだ、明日は、今から二日たつと
「ばか! 青大将にしかなれないのか!」と悟空がしかった。青大将が消えて八戒が現われた。「だめだよ、おれは。まったくどうしてかな?」
「ああ、おれは一番損な道を来たものだ。右の道を来たために、都の入口で死ななければならぬか。」と、心のうちで思いました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのくせおれは跫音をきいた覚えがありやしない。こういう風に僕は長島に言うのである。ワッハッハと彼は笑って無言である。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「なんというべらぼうなこったか、干からびたねずみのようなおれが——ここにはいるんだって? わしゃ、はずかしいわいなあ。」
実のお母親ふくろの気でいても全くは他人、この魂胆を知っているのは松五郎の生前に聴いたおればかりだ……とお前のところの隠居に云わせるのだ
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
おれにも貸せ」と梶さんが手をばす。「待て、待て」と横からのぞいていた沢村さんが怒る。あとは、ワアッと大笑いでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おれが一つこの喧嘩の仲裁をしてやらなくちゃならんと言うて、自分の腰の煙管きせるを抜いて坊さんの所へずっと持って行きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
が、かうして、忘れよう/\と努力して、それを忘れてしまつたら、かへつてどうにも出来ない空虚が、おれの心に出来て了つた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
おれなどはまだ学問が足りないのだ、平家物語を註釈する程に学問が出来て居ないのだと言つて、慨歎がいたんして筆をくところが書いてありました。
一人の無名作家 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おれも、あの市來知いちぎしりにある、野菊のぎくいてる母親マザーはかにだけはきたいとおもつてゐる。本當ほんたう市來知いちぎしりはいゝところだからなあ。』
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
花岡 そりゃ、しめたよ、おれが。しめたけど、誰がお前こんな——だからよ……ちきしょう! お前の、その——軽蔑けいべつか? 軽蔑するんだな?
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
なるほどおれは働かないが、その代りお前が働いてくれる、それでこれまでも暮らして来た、これからだって暮らせるだろう。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それで鮎子さんは、パトロンと別れておれと結婚したい、結婚したらパトロンから貰ったお金で俺を勉強させると言っている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
彼は不忠者である、彼は不孝者であるという言葉はしばしば聞くが、おれは不忠である俺は不孝であると感ずることは少ない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ピツコロ 「よけいなことを言ふな。だけどみんなおれの顔をみて笑つてる。少し恥かしいな。では、横丁へいつて泣かう。」
〈ピツコロさん〉 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
おれはこんな男に対して、どんな手段を取るだろう、俺がしょくの都へくのは、ねて往くのではない、苦しいから逃げて往くのだ、いずれにしても
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
おれは石だぞ。俺は石だぞ。」と念じているような気持で少しも動かないのである。ただ眼だけはらんらんとさせている。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
若しおれが使い切れぬ程の大金を手に入れることが出来たらばなあ。ず広大な地所を買入れて、それはどこにすればいいだろう。数百数千の人を
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つまらねえのを、たくさん入れても、部の質が落ちるばかりだしなあ、おれだって、張り合いがねえや。考えて置いてれ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
文麻呂 元気を出せ! 清原! 元気を出すんだ! なよたけと貴様の恋は死んでもこのおれ成就じょうじゅさせるぞ!……親父の名誉にかけて俺は誓う!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
これ程おもうおれにお前の気持をいって呉れ、というので、「空ゆと来ぬ」が特殊ないい方で、今の言葉なら、「宙を飛んで来た」ぐらいになる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「その縁の尽きないのが、究竟つまり彼我ふたりの身の窮迫つまりなのだ。おれもかう云ふ事に成らうとは思はなかつたが、成程、悪縁と云ふ者は為方しかたの無いものだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おれの祖先は、わたり者かも知れない。魚をってカツカツ食って行ったのであろう」そういいながらも、貧乏びんぼうをして何日も飯が食えぬと私を叩き
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)