乾児こぶん)” の例文
旧字:乾兒
乾児こぶん衆に担がせ、いくらともなく出張って来、掛け小屋で大きな勝負をやる筈。拙者、明日は早々ここを立って、府中あそこへ参るつもりじゃ
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大和民労会の五六十名、河井徳三郎や高橋金次郎の乾児こぶんなぞが血眼になったという面白い来歴があるが、古い話だからここには略する。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
乾児こぶんらしいのが、二、三十名は、たしかに、その附近に立っていた。そして、三人の若い者が、入札にゅうさつの紙と、矢立と、札箱を持ち廻って
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日のうちに相当の乾児こぶんを使者に破約を告げて、お嬢さんへ親分からの志といって、まるで結納のように飾りたてた高価な進物をくれた。
青鬼の褌を洗う女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
伝吉はたちまち枡屋ますやわれ、唐丸とうまるまつと称された博徒松五郎まつごろう乾児こぶんになった。爾来じらいほとんど二十年ばかりは無頼ぶらいの生活を送っていたらしい。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅太郎が、この二三年忠次の信任を得て、影の形に付き従うように、忠次が彼を身辺から放さなかったことは、乾児こぶんの者が皆よく知っていた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
隣りに自分より少し小柄の子供を二人連れ、時々話し合っているのは、既に——上陸後三時間にして早くも乾児こぶんを作ってしまったのだろうか?
双方がにらみ合ってる中に、父の弟分なり乾児こぶんなりであった肴屋さかなやたつという六尺近くもある大男の豪のものが飛び出して、相手を一拉ひとひしぎにしたので
天水桶の陰に、しゃがんで、指先でなにかしきりに地面へ書いているのは、頬冠ほおかむりでよくはわからないが乾児こぶん勘弁勘次かんべんかんじ。十三夜の月は出でて間もない。
洒落しゃれにもならないが、いたって気はいい。これが顎十郎の腰巾着こしぎんちゃく乾児こぶんとも、弟子とも、家来ともいうべき関係。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
医学士せんせい奥様おくさんを殺して、願いを叶えてくれるんなら、水天宮様の縁日に、かしら乾児こぶんと喧嘩をするようにしてあばれ込んで行ったって殺されるものじゃない。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん、磯貝金いそがいきん乾児こぶんだ。この前、挙げたときはまだ年齢が足らんで放してやったんだが、それがいつの間にか一人前になってね——ほら、このとおりだ」
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
「笑ふとも、猫かぶりの悪党さ。澄まして、大人しくして、偉いつもりなのか知らないが、あんな奴世の中へ出たって、精々山賊の乾児こぶんにしかなれないよ。」
背後 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
この船の船員は、みんなピコル船長の乾児こぶんだろう。だから安心だが、臨時に雇った水夫やボーイたちは、上陸すると、この船の悪事を、みんなもらしてしまう。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
また予の乾児こぶんに兎糞を乾かして硬くなったのを数珠に造りトウフンと名づけて、田辺湾の名物で只今絶滅した彎珠の数珠に代えて順礼等を紿あざむき売った者がある
むきだしな花道の端れでは、出を待っている山賊の乾児こぶんが酔った爺にくどくど纏いつかれている。
山峡新春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから義塾の矢野文雄やのふみお、故藤田茂吉ふじたもきち犬養毅いぬかいつよし箕浦勝人みのうらかつんど加藤政之助かとうまさのすけ森下岩楠もりしたいわくすなどいう連中が我輩の宅に来る様になって、到頭とうとう何時いつの間にか我輩の乾児こぶんになってしまった様な訳だ。
「文部か。文部なら俺でなくたつて——それに第一乾児こぶんの者が承知せんよ。」
あったらまた御上でも棄てちゃおきますまいが、乾児こぶんの若けえ者達の話によると、竜造寺の殿様が二三度あの道場へこっそり御這入りなすったところをたしかに見かけた、と言うんでごぜえます。
維新後父の死歿を機として遺産のすべてを乾児こぶんどもに頒ち
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
と、連れて来た乾児こぶんに、命じるお初だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
戸板を舁き捨て、素早く逃げ出した五郎蔵の二人の乾児こぶんであった。二人の走って行く様は、おりから解放された獣かのように軽快であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俺はモウ決心を固めているのだからこの際何も云うてくれるなと云って乾児こぶんうちの一人に自分の席を譲り、その場で、お別れの酒宴を初めました。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
述懐して、あん乾児こぶんたちへも、このごろの収穫みいりの貧しい理由をいって聞かせると、蜘蛛太は、小賢こざかしい眼をかがやかし
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾児こぶんの勘弁勘次や葬式とむらい彦兵衛は、その辺のこつをよく心得ていて、いつも藤吉の口が重くなると触らぬ神に崇りなしと傍へも寄らないように、そっとして置くのだった。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正直ぽうで、それに乾児こぶんのものなどに対しては同情おもいやり深く、身銭みぜにを切っては尽くすという気前で、自分の親のことを自慢するようであるが、なかなかよく出来た人であった。
と、船長はじめ、乾児こぶんたちは、声のかぎり絶叫し、死物狂いにオールを漕いでくる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
乾児こぶんにまたいっぷう変ったやつがいて、中でもおもだったのは毛抜けぬきおと阿弥陀あみだの六蔵、駿河するがための三人。一日に四十里しじゅうり歩くとか、毛抜で海老錠えびじょうをはずすとか不思議な芸を持ったやつばかり。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
上州じょうしゅう岩鼻いわはなの代官をり殺した国定忠次くにさだちゅうじ一家の者は、赤城山あかぎやまへ立てこもって、八州の捕方とりかたを避けていたが、其処そこも防ぎきれなくなると、忠次をはじめ、十四五人の乾児こぶんは、ようやく一方の血路を、り開いて
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
マレー半島のオーラン・ラウト人信ずらく、造物主人魂たましいを石に封じ、大盲飛竜して守らしむ。その乾児こぶんがかの地に普通の飛竜でいつも天に飛び往き、大盲飛竜より人魂を受けて新産の児輩こどもれる。
博徒伝吉、おどしの長ドスをひらめかし、乾児こぶん、得ものを振って出づ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向こうが多勢というのなら、乾児こぶん子方を駆り集め、こっちも大勢となった上で取りひしごうじゃございませんか。恐れるところはございません
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるにこれにいったん有意有能な同志や乾児こぶんがくっつくと、無限不動のうちにその同志や乾児の総ての能力以上の価値を示す事が出来るのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうしたんだい、おばさんの良人おっとを打ったという辻風典馬は、打ち殺してくれたし、その乾児こぶんも、らしてやったのに、ふさいでいることはなかろうに」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闇黒やみの中で声のするほうへしきりに目礼を送っていると、騒動を聞き、乾児こぶんをまとめて駈けつけて来た金山寺屋の音松、大岡様に呼びつけられて、それとはなく言いつけられたように
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして帰る時には数百元を送りものとして進上する。又その者が外出する時には乾児こぶんみたいな奴を五六人もつけてやる。
辻風典馬が、土間のほうで焦心いらっている、それでも、乾児こぶんの野武士たちと、部屋の中とは、じっと、睨み合いのかたちで、いつまでもらちがあきそうもない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青紅チンオン嬢の一乾児こぶんとなったもので、Rの四号というのはヤッパリ君の事らしいという王君の報告だがね。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文珠屋佐吉の乾児こぶんで承知の由公、こいつ、名打ての尾行つけや張込みの名手なので。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いやいやそれには及ばない。宮越みやのこし、越えれば福島じゃ。これまで隙のないものが、これからありよう筈はない……乾児こぶん衆にもおさらばおさらば」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
年より扱いが元から嫌いなたちなのである。乾児こぶんこもの十郎とお稚児の小六は、舟をつないで後からいた。河原は渺々びょうびょうとして眼の限り石ころと水であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御縁に貴方の乾児こぶんにして、小使でも何でもいい一生を飼殺しにして下さい。忰を一人前の人間に仕立てて下さい。給金なんぞは思いも寄らぬ。生命いのちでも何でも差出します
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乾児こぶんたちは、筆屋のふるまい酒に酔いれたあげく、例によって吉原へでも繰りこんだのであろう。まだ一人も帰って来ていなかった。茶の間の長火鉢をへだてて、壁辰と喬之助がすわっていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おおそうそう、この露路の奥に代官松の住居があったはずだ。ははアそれでは友吉という男は、あの目明しの代官松の乾児こぶんの一人であったのか」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
初めは低声こごえであったが、そのうちに半瓦や乾児こぶんがいることも忘れ果てた有様で、朗々と声の高まるにつれて、顔の形相も、物にかれたように変ってしまう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは……投函局が佐賀県の呼子よぶこか……おかしいな。あすこにも吾輩の乾児こぶんが居るには居るが……大正九年八月十五日……憂国の一青年より……堅田検事総長閣下……フーム。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父がちがう以上、その娘という女も、おゆうさんの娘であるわけはねえから、わたしは、ちょっと娘にくやみを述べただけで、あとのことはすっかり乾児こぶんどもにまかせて、そのままけえったのです。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
関宿の侠客英五郎と、その乾児こぶんの者百人あまり、娘の君江も中にまじった、小一郎さがしの同勢が、大森林を上へ上へと、今や上って来るのであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「これは、半瓦弥次兵衛はんがわらやじべえという者の、乾児こぶんどもが書いて、各所に立てたものだそうで。——いかにも文言が、無法者らしいと、街の者は、うれしがっておりまする」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからのちの彼は実際、目的のために手段を選まなかった。そうして乾児こぶんらしい乾児を一人も近づけないまま、万事タッタ一人の智恵と才覚でもって着々として成功して来た。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)