雪隱せつちん)” の例文
新字:雪隠
俚諺に所謂『雪隱せつちんで饅頭を食ふ』やうな卑劣なる行爲を敢てして、而して心竊かに之を智なりとして居るものも隨分有るのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
縁側沿ひに雪隱せつちんの裏へと續いて居るのは不思議ですが、これも辨次が鼬退治で武勇を振つたときの、見得を切つた名殘と見られないこともないのです。
「この通り、たつた二た間の家だ。あとは臺所に、押入に、雪隱せつちん、匿す場所も、隱れる場所もある筈は無い。踏込んで、床下なり天井裏なり、勝手に搜せ」
覗いたつて、小判がかえるに化けるわけぢやあるめえ。人間氣の持ちやうぢや、錢箱も雪隱せつちんも覗くだらうぢやないか。それだけの事で人一人縛るわけには行かねえよ
もつともその晩、まだ宵の内に氣分が惡いと言ひ出して、自分の部屋へ私と母親を呼び付けて大騷動したがね。雪隱せつちんへ行くとケロリとなをつたと言ふから、安心して引取つたが
「何を馬鹿なことを言ふのだ。拙者の來國俊は縁側の刀架にあつたのだぞ——その時拙者は雪隱せつちんに入つて居たのだ。拙者せつしやに知られずに、縁側を刀架の側まで來る工夫があると思ふか」
雪隱せつちんの前に用意してある刀架に任せて置くのですが、何やら胸騷ぎがしたものか、刀架けには長い方の來國俊ひと腰だけを任せ、短い方は手に提げたまゝ便所の中に入つてしまつたのです。
「あれ、まだ鰻に取つつかれて居ますね。あつしの話は同じ長物でも、鰻ぢやなくて槍ですよ。九尺柄笹穗皆朱さゝほかいしゆの槍、見事な道具でさ——それを場所もあらうに、雪隱せつちんへブツリと突つ立てた」
「さすがは親分だ。あつしは地獄の三丁目かと思ひましたよ。どうかしたら、閻魔の屋敷の雪隱せつちんの床下かも知れないと思つて這ひ出すと、眼の前に燃え殘りの護摩壇ごまだんが見えるぢやありませんか」
「へツ、あんまり景氣の良い話ぢやありませんが、雪隱せつちんへお百度ですよ」
まきや材木を積むこと、川岸に小屋や雪隱せつちんを建てること、二階に灯を點けることまで禁じましたが、夜毎の火事騷ぎは少しも減らず、たうとう四代將軍家綱が豫定された日光參詣の日取まで延引して
「その影法師も、月夜の往來へ出るうちは良かつたが、この節は横着になつて、時々彦太郎の部屋の障子しやうじに映つたり、雪隱せつちんの窓から覗いたり、おかげで彦太郎は近頃少し氣が變になつたといふ話で」
雪隱せつちんにも見えない、——どうしたことだらう」