躁狂さうきやう)” の例文
上木屋町かみきやまちのお茶屋で、酒を飲んでゐたら、そこにゐた芸者が一人、むやみにはしやぎ廻つた。それが自分には、どうも躁狂さうきやう下地したぢらしい気がした。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
嗚呼、是れ皆熱の爲めに發せし譫語うはごとのみ、苦痛の餘なる躁狂さうきやうのみ。我に心の光明を授け給ひし神よ、我運命の柄を握り給ふ神よ。我は御身の我罪を問ひ給ふことの刻薄ならざるべきを知る。
もなく躁狂さうきやうの芸者が帰つたので、座敷は急に静になつた。窓硝子ガラスの外をのぞいて見ると、広告の電燈の光が、川の水にうつつてゐる。空は曇つてゐるので、東山ひがしやまもどこにあるのだか、判然しない。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)