誦経ずきやう)” の例文
旧字:誦經
本堂も隙間がない位に一杯に信者が集つて、異口いく同音に誦経ずきやうした。その中に雑つて、慈海の誦経の声は一段高く崇厳に高い天井に響いて聞えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仮名もろくに書けないものには、道風の書もつまらないぢやないか? 信心気しんじんきのちつともないものには、空海上人の誦経ずきやうよりも、傀儡くぐつの歌の方が面白いかも知れない。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
暫くして、本堂の前に行つて端坐したかれは、長い長い間、誦経ずきやうの声をやめなかつた。それは皆なかの女の為めに、罪の多いかの女のために……。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
義輔 「しかしだね。しかし天才は君の云ふやうに、罪ばかり作つてはゐないぢやないか? たとへば道風の書を見れば、微妙な筆力に動かされるとか、空海上人の誦経ずきやうを聞けば——」
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信者達の熱心な誦経ずきやうの声はあたりに満ちた。取附く島もないやうにして上さんは立つてゐたが、やがて庫裡くりの奥から五分刈位に髪の毛を延したひげの深い僧が此方にやつて来た。それはかれであつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)