花車きやしや)” の例文
調子よく波に揺られてゐる索具つなぐの一杯ついた船の花車きやしやな姿は、魂の中にリズムと美とに対する鑑識を保つのに役立つものである。
港内測量のため異国の火輪船がはじめて新潟港外に悪魔的な花車きやしやな姿を現したとき、この虚無的な港市には未曾有の異変に当るべき武人も武器も持たなかつた。
母を殺した少年 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
この様を場内の旅客りよかくが珍らしさうに立つて見て居る中に、桃割もヽわれに結つて花車きやしやななよ/\とした身体からだれの二十四五の質素しそな風をした束髪の女の身体からだにもたれるやうにして
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
もうキチンと座敷の中がとり片づけられて居、トランプをするために買つたと云ふ大きな一閑張いつかんばりの机が、座敷の真ン中へ、彼の花車きやしやな体をぐたりともたせかけさせるために持ち出されてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
その花車きやしやなうなじに、唇に、彼自らの体臭を予想してみることすらも、自然であつた。二つの胸がふれたなら、各々のさめはてた心を冷めたく感じあふほかに、恐らく仕方がないだらう。