糶売せりうり)” の例文
旧字:糶賣
見ると、やや立離れた——一段高く台をんで立った——糶売せりうりの親仁は、この小春日の真中まんなかに、しかも夕月を肩に掛けた銅像に似ていた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土地の糶売せりうりはすなわちこれであって、小民は宝物でも持つ考えで土地をほしがる、いかに米が高くなっても、郵便貯金の利子にも足らぬような法外な金を払ってまでも
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
八つの時、私の幼い人生にも、暴風が吹きつけてきたのだ。若松で、呉服物の糶売せりうりをして、かなりの財産をつくっていた父は、長崎の沖の天草あまくさから逃げて来た浜と云う芸者を家に入れていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
述べる口の下から、一巻についていくら、十巻以上は割引……まるで糶売せりうりのような景気。でもなかなか売れるようでしたから、ずいぶんお金儲けにもなりましょう。ほんとうに今時の坊さんは商売上手です
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一、この角の黒渋赤渋の合羽屋が、雑貨店にかわって、京焼の糶売せりうりとは、何事です。さあ二貫、二貫、一貫五百は何事です。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)