石鹸玉しゃぼんだま)” の例文
世の中にこれ位性急せっかちな(同時に、石鹸玉しゃぼんだまのように張りつめた、そして、いきり立った老人の姿勢のように隙だらけな)心持はない。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
ただわずかに見分けられるのははかない石鹸玉しゃぼんだまに似た色彩である。いや、色彩の似たばかりではない。この白壁に映っているのはそれ自身大きい石鹸玉である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おい、君のこの頃の様子を見ると、まるで月の世界にでもふみ込んでるようだぜ、夢の王国、幻の国、石鹸玉しゃぼんだまの都にでもね。いったい女の名は何というんだ?」
噺のなかの人物の雌雄めすおすの区別もつかず、万事万端でたらめの代わり、そこになんらの理に落ちるところなく、フワフワフワと春の日の石鹸玉しゃぼんだまみたいだから、派手でおかしい。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
同時にまた勇ましい空想も石鹸玉しゃぼんだまのように消えてしまった。もう彼は光栄に満ちた一瞬間前の地雷火ではない。顔は一面に鼻血にまみれ、ズボンの膝は大穴のあいた、帽子ぼうしも何もない少年である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)