由無よしな)” の例文
夫は戸の外をゆびさしてなほ去らざるを示せり。お峯は土間に護謨靴ゴムぐつと油紙との遺散おちちれるを見付けて、由無よしなき質を取りけるよとおもわづらへる折しも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今日一日の物質的損害の額は算するに由無よしなし、死傷も多大なり、生き残れる人々も明日の事を思いて、生きたる心地無し。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
生家さとなる鴫沢しぎさわにては薄々知らざるにもあらざりしかど、さる由無よしなき事を告ぐるが如きおろかなる親にもあらねば、宮のこれを知るべき便たよりは絶れたりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
由無よしなき者の目には触れけるよ、と貫一はいと苦く心跼こころくぐまりつつ、物言ふも憂き唇を閉ぢて、唯月に打向へるを、女は此方こなたより熟々つくづく見透みすかして目も放たず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)