溌墨はつぼく)” の例文
こう一気に書いて来て、宋江はその溌墨はつぼくの匂いとともに、心気すこぶる爽快そうかいになった。無性に、何かうれしくなり、つづいてその後に。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シナの名墨や、端溪などの名硯めいけんについて、同様な研究をしてみたらいわゆる墨色とか、溌墨はつぼくとかいう東洋の墨の神秘に科学的な説明がある程度まで与えられるかもしれない。
八幡馬と墨の研究 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
溌墨はつぼくの具合も至極よろしい、試してご覧なさいと、おれの前へ大きな硯をきつける。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
銀泥の雪と溌墨はつぼくの岩とが自然に成った絵である。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あの東洋画独味の墨の絵——溌墨はつぼくを以て自然に溶け入ろうとする心の絵——呼んで「水墨画」というものである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
溌墨はつぼくというか、その筆触のあとには、多分に梁楷、牧谿もっけい、それから邦人の海北友松や狩野の影響らしいものが、われわれ素人眼にも、すぐ思い出されてくる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)