渋柿しぶがき)” の例文
旧字:澁柿
これと始めのうちに同居していたたくさんの花瓶はだんだんに入り代わって行くのに、これだけは木守りの渋柿しぶがきのように残っていた。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その年の渋柿しぶがきの出来のうわさは出ても、京都と江戸の激しい争いなぞはどこにあるかというほど穏やかな日もさして来ている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その翌朝、雨はれてゐた。からりとした初冬の空が、雨あがりの湿気を吹きはらつてゐた。荒れた狭い庭の柿の木にはしもを置いたやうな小粒な渋柿しぶがきがいくつか実つてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかし、一たび、心眼を開いて、因縁の真理に徹し、無我の天地に参ずるならば、いとうべき煩悩ぼんのうもなければ、捨てるべき無明まよいもありませぬ。「渋柿しぶがきの渋がそのまま甘味かな」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
陰干の渋柿しぶがきのような色になった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はかつて「思想」や「渋柿しぶがき」誌上で俳諧連句の構成が映画のモンタージュ的構成と非常に類似したものであるということを指摘したことがある。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この比較についてはかつて雑誌「渋柿しぶがき」誌上で細論したからここには略するが、それと全く同じことが映画の律動的編成についても言われるのである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夢の心理と連句の心理の比較についてはかつて雑誌「渋柿しぶがき」誌上で詳論したからここでは略する。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)