根柢的こんていてき)” の例文
根柢的こんていてきに日本の幽霊を退治したわけではなく、むしろ年と共に反動的な大幽霊と自ら化して、サビだの幽玄だの益々執念を深めてしまう。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
正しい緊張に於て生活される間は個性は必ず絶対的な自由の意識の中にある。だから一層正しくいえば、根柢的こんていてきな人間の生活は自由なる意志によって導かれ得るのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして当人が思いこむということがその文学をして実在せしめる根柢的こんていてきな力だということを彼が信条とし、信条通りに会得したせいではないかと私は思う。
何故愛をその根柢的こんていてきな本質に於てのみ考えることが悪いのだ。それをその本質に於て考えることなしには人間の生活には遂に本当の進歩創作は持ちきたされないであろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つまり荒君は非常に現実家のようだが、根柢的こんていてきには夢想児なので、平野君とて、やっぱりそうだ。
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
人は、私のこの愛の外面の現象を見て、私の愛の本質は与えることに於てのみ成り立つと速断することはないだろうか。然しその推定は根柢的こんていてきに的をはずれた悲しむべき誤謬ごびゅうなのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どうせ生涯落伍者らくごしゃだと思っており、モリエールだのボルテールだの、そんなものばかり読んでおり、自分で何を書かねばならぬか、文学者たる根柢的こんていてきな意欲すらなかった。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
人のことなど考えてやしないのだ。何でも当然と思って受け入れる。どうでもいいやと底で思い決しているからで、凡そ根柢的こんていてきに冷めたい人であった。私の家には書生がたくさんいた。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私は人を羞しめきずつけることは好きではない。人を羞しめ傷けるにえうるだけの自分のりどころを持たないのだ。吐くツバは必ず自分へ戻ってくる。私は根柢的こんていてきに弱気で謙虚であった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)