忘八くつわ)” の例文
ドアを開けた出会頭であいがしらに、爺やがそばに、供が続いて突立つったった忘八くつわの紳士が、我がために髪を結って化粧したお澄の姿に、満悦らしい鼻声を出した。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忘八くつわ屋商売はしておりますが、心は忘八くつわではないつもりの、如来衛門と申す者……難儀のお方と見たが最後、どうでもお助け致さないでは、この胸の中が納まらない変な性分の者でございます。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ずり落ちた帯の結目むすびめを、みしと踏んで、片膝を胴腹へむずと乗掛のりかかって、忘八くつわの紳士が、外套も脱がず、革帯を陰気に重く光らしたのが、鉄の火箸ひばしで、ため打ちにピシャリ打ちピシリと当てる。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)