孱顔さんがん)” の例文
想うに麓の大森林を失って劒岳の孱顔さんがんは、階老の侶を先立ててにわかに憔悴した人のように、金剛不壊の額にも幾条か崢嶸そうこうの皺が増したことであろう。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そして珍らしく穏かな或日の朝、雲の綿帽子をかなぐり捨てた和やかな孱顔さんがんを見せている山を眺めて、村の人達はじきに天気の変ることを知るのである。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
南日君も今頃は八ヶ岳に登っている筈なので、遠く其方面に眼を放ったが、八ヶ岳は勿論北アルプスの大嶺は、霙々えいえいたる雲海の下に沈んで、終に一度も孱顔さんがんを顕わさないのは残念であった。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これからは路も明瞭である。十時頃大きな崖の縁に出た。来し方を顧ると、枝という枝を霧氷に飾られた大小二本の樅の間から、雲表に聳ゆる富士が笑ましげに孱顔さんがんを顕し、宛然さながら一幅の画であった。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)