夤縁いんえん)” の例文
一切の夤縁いんえんを断切ッて無籍準死の人間となり、三界乞食さんがいこつじきの境涯で、情意のおもむくままに実誼無雑の余生を送る所存なのである。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
葉子との郷里の夤縁いんえんで庸三を頼って来たものだったが、詩の天才的才分は、庸三も認めないわけに行かなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一は田沼濁政の後を承け、天下の民みな一新の政を望むの時に際し、他は文恭公太平の余沢に沈酔したるに際す。一は天下の衆望によりてぬきんでられ、他は寵臣ちょうしん夤縁いんえんによりてすすむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
けだし人は生れながらにして理性を有し、希望を蓄へ、現在に甘んぜざる性質あるなり。社会の夤縁いんえんに苦しめられず真直まつすぐに伸びたる小児は、本来の想世界に生長し、実世界を知らざる者なり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)