とつく)” の例文
「よろしゆおま。御膳の支度やつたらとつくに出來たるさかい、何時なんどきなりと上つとくんなれ。そやけどなあ、御ぜんが濟んだら早うにいんで貰ひまつせ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ゴオゴリの『死霊しりやう』を読むと、名義だけは生きてゐるが、実はとつくに亡くなつてゐる農奴を買収し、遠い地方へ持ち込んで、そこで銀行へ抵当かたに入れて借金をする話が出てゐるが
とつくに向うを飛んでゐる。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
けれども自分はとつくの昔臆病な大人になつてゐるので、相手の一本調子にうつかり相槌は打てないぞと、腹の中で、油斷のない狡猾な注意を忘れなかつた。
「樟といふ小説家は始めて出つくはしたが、うちの三田さんとは思はなんだ。あの御方は一風變つてるとはとつくに睨んでゐたが、矢張ただもんではなかつた。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
とつくにべろべろに醉つて、すべて其の場の事は自分を思ふ人々の熱情のあらはれだと考へていゝ氣持になつてゐた田原も、愕然として目の前の御膳を蹴飛ばしながら立上つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)