囈語ねごと)” の例文
何遍か己は寐入りさうになつたが、眠つてゐるワシリが寝返りをしたり、何か分からぬ囈語ねごとを言ふのに妨げられた。
「皮肉なら好いけれども、時々気の知れない囈語ねごとを云うにゃ困るじゃないか。何でもこの頃は様子が少し変だよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八はふと何物かに驚いて目を醒まして見ると、もうねむたくはない。驚いたのは、多分隣の部屋に寝てゐる軍人の一人が囈語ねごとでも云つて、寝返でもしたのであつたらう。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
四の五のなしとは結構なおおせ、私も手短く申しましょうならお辰様をうらせたくなければ御相談。ふざけた囈語ねごとおいてくれ。コレ七、しずかに聞け、どうか売らずと済む工夫をと云うをも待たず。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この時ワシリは囈語ねごとに何か囁いた。それが己には溜息のやうに聞えた。そしてあれは誰の事を思つてゐるのだらうかと想像した。己は解く事の出来ない謎を解かうとして、深い物思に沈んだのである。