そういう彼と向かい合って、同じような椅子に腰をかけている、三十五、六歳の武士があったが、他ならぬ十二神貝十郎であった。
十二神貝十郎の邸まで、予定を変えて運んで行くように、と、こう私達に、云いましたので、そこで私達はその通りにしました。
「十二神氏、そこにおられたのか」新八郎はテレたように云った。「田沼侯のお屋敷へはいれと云われる、何んの必要がありましてかな?」
精通している十二神貝十郎で、そう知らされると主殿頭は、即刻冬次郎の隠れ家を襲い、織江を奪って来るようにと、九十郎に命を下した。
その騒動を外にして、むしろセセラ笑う心持ちで、十二神貝十郎は腹心の同心、源吾と伴作とを供に連れ裏門から外へ出た。