もともと一笠一杖いちりゅういちじょうですむ僧の生涯に、なんで地位だの官位だのと、そんなわずらわしいものを、求めたり、持たせられたり、するのだろうか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といふ一句を吾家の門扉に付して家を出で法体ほったいとなりて一笠一杖いちりゅういちじょうに身を托し、名勝旧跡を探りつゝ西を志す事一年に近く、長崎路より肥前唐津からつに入り来る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ところが、その友松どのは、今朝起きてみますと、もうおりませぬ。兵と共に起き出て、まだ夜も明けぬうち、一笠一杖いちりゅういちじょうの気軽さ、飄乎ひょうことして立ち去ったものとみえまする」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この夜半よなかすぎに聖光院を捨ててそもいずこへ走ろうとするのか、範宴の身にはすでに聖光院門跡のまとう綾の法衣ころもや金襴は一切着いていなかった、一笠一杖いちりゅういちじょうの寒々とした雲水のすがたであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)