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とうくわうゐん
音に聞いてゐた
東光院の
境内は、
遠路を歩いて疲れた上に、また長い石段を登つてまで見に
行くほどの場所でもなかつた。
東光院の堂塔は、
汽動車の窓から、山の
半腹に見えてゐた。青い
木立の中に黒く光る
甍と、白く輝く壁とが、
西日を受けて、今にも燃え出すかと思はれるほど、
鮮やかな色をしてゐた。
『こんなとこへ、もう一生來ることあれへん。
折角來たんやよつて、まア
東光院へでも寄つて行きまへう。』と、お
光は、銀貨を取り出して、東光院へ行く
停車場までの切符を女房に買はせた。