傲然ごうぜん)” の例文
どうも傲慢ごうまんらしい! 見るからに険のあるまなざし、傲然ごうぜんとした態度、何か尋ねたら、お直参であるのを唯一の武器にふりかざして
勇敢に傲然ごうぜんとマスクを付けて、数千の人々の集まって居る所へ、押し出して行く態度は、可なり徹底した強者の態度ではあるまいか。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし、式がいよいよはじまるころには、もう少しもてれた様子がなく、塾生じゅくせいたちをねめまわすその態度は、むしろ傲然ごうぜんとしていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
傲然ごうぜんとした様子で取次を頼むという客が小父さん達と同国の人とかで東京へ一文も持たずに移住したものは数え切れないほどあるが
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしながら、クリストフのうちにうなっていた傲然ごうぜんたる世界は、はるかに異なったる法則をもっていて、他の知恵を要求していた。
と熊城は傲然ごうぜんと云い放って、自説と法水の推定が、ついに一致したのをほくそ笑むのだった。しかし、法水ははじき返すようにわらった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もし彼らにして民衆を率いるの実際の識と能となくしかも傲然ごうぜんとして民衆を支配せんと欲するならば、ここに社会は大欠陥を現出する。
もうきたなくなって、だれにも顧みられず、いやな姿で傲然ごうぜんと控えていて、市民の目には醜く、思索家の目には陰鬱いんうつに見えていた。
叱呼しっこしながら入って来た三樹八郎。——たすき、汗止め、はかま股立ももだちをしっかりと取って、愛剣包光かねみつ二尺八寸を右手に傲然ごうぜんと突立った。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれは馬にまたがって傲然ごうぜんと出て行ったが、門は閉じてある、垣は甚だ高い。かれは馬にひとむちくれると、駿馬しゅんめおどって垣を飛び越えた。
にんじんは、あおざめ、腕を組み、そして首を縮め、もう腰のへんがあつく、脹脛ふくらはぎがあらかじめひりひり痛い。が、彼は、傲然ごうぜんといい放つ——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
だが、その言訳を強調するために自分の仕事の性質の奇稀性について話を向けて来ると、老人は急に傲然ごうぜんとして熱を帯びて来る。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
するとどこからか大井篤夫おおいあつおが、今日は珍しく制服を着て、相不変あいかわらず傲然ごうぜんと彼の側へ歩いて来た。二人はちょいと点頭てんとうを交換した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は、それでも新進作家らしく、傲然ごうぜんとドア近くの椅子に腰かけたのであるが、膝がしらが音のするほどがくがくふるえた。
断崖の錯覚 (新字新仮名) / 太宰治黒木舜平(著)
天城四郎はといえば、本堂にあって、経櫃きょうびつの上に傲然ごうぜんと腰をおろし、彼の姿を見ると突っ立って、頭から一喝いっかつをくらわした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信州から来た木曾の藤爺ふじじいさんを、下っぱに押据えて、木口勘兵衛尉源丁馬が傲然ごうぜんとして正座に構えたところを見ると、さすがの鐚も悲鳴をあげ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余はきょうじょうじた。運転手台に前途を睥睨へいげいして傲然ごうぜんとして腰かけた。道があろうと、無かろうと、斯速力で世界の果まで驀地まっしぐらに駈けて見たくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それかと言ってつらく当たっているとはもちろん思えないのであるが、何となく傲然ごうぜんとしているように見受けられた。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
「見てたとも——」川上はそう答えて、はずむ呼吸を抑え、傲然ごうぜんといい放った。「あたいはそん時三つだったんだ!」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
女たちが此の人質の貴公子に儀礼を拂った時、少年は襟元えりもとまであかくなった顔を傲然ごうぜんもたげて、大名の若君にふさわしい威容をつくろって立っていた。
「浦瀬は日本人だ」ルパンは傲然ごうぜんとして云い放った。「俺は嘗つてモロッコ人を三人、一時いちどきに射殺したことがある」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それがいま傲然ごうぜんと呼び捨てにされたので幸吉たるもの胸中いささかおだやかでない、かれはだまって答えなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
蝦蟇法師は流眄しりめに懸け、「へ、へ、へ、うむ正に此奴こやつなり、予が顔を傷附けたる、大胆者、讐返しかえしということのあるを知らずして」傲然ごうぜんとしてせせら笑う。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傲然ごうぜんみずから無為に食して、これを天然の権義と思い、その状あたかも沈湎冒色、前後を忘却する者のごとし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
明り取りが無くて薄暗いので、隅の方は良く判らないが、此方から見る正面には、一人の老婆が傲然ごうぜんと——誠に女王の如く傲然と踞坐こざして煙草を吸っている。
眺める通路の中ほど太子の船室ケビンと覚しきあたりには、見るから憎々しいあから顔の大兵だいひょうな英人二人がこちらを眺めながら平服の腕を組んで傲然ごうぜんと語り合っている。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
西光は名だたる豪の者であったから、先程から、顔の色一つ変えず、傲然ごうぜんと清盛の言葉を聞いていたが
私は彼等が百貨店の陳列窓をのぞいてゐるところを見掛けた。私が近づいて行くと男は傲然ごうぜんと私を見返したが、女はむしろ避けるやうに自分の菊の花を向ふ側に向けた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
主人は眼をしばたたいて、物言うなと制止したが、それを悟ってか悟らいでか、今度はくるり臙脂屋の方へ向って、初めて其面をまともに見、傲然ごうぜんとして軽く会釈し
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人々はさもけがらわしいというような傲然ごうぜんたる態度で、そんなことはとうてい不可能だと答えた。
家庭でも、隣近所、学校でも憎まれ者の私は、いつか傲然ごうぜんと世を白眼視するようになっていた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いささかのずかしさのために顔を染めてはいたものの、傲然ごうぜんとした足つきで出ていった、それは丁度、長い酷使と粗食との生活に対して反抗した模範を示すかのように。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
しかしこの白眼やさげすみに傲然ごうぜんと対していられるのだったら、見るものの感じも違ってくる。
傲然ごうぜんと、わ、わ、わ、わしも、ト、ト、ト、トラックを、か、か、買うことにした、く、く、く、組合なぞ、わ、わ、わしは、か、か、か、かたらん、と云って立ち上り
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
リット提督は、卓上にひろげた大きな世界地図を前にして、傲然ごうぜんと椅子の背にもたれている。左手にしっかりと愛用のパイプを握っているが、火はとくの昔に消えていた。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なかなか傲然ごうぜんと構えたお方で、お目通りが出来るどころではなく、御門をお通りになるたびごとに徳蔵おじが「こわいから隠れていろ」といい/\しましたから、僕は急いで
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
すなわち横ぎりにかかる塗炭とたんに右の方より不都合なる一輛いちりょうの荷車が御免ごめんよとも何とも云わず傲然ごうぜんとして我前を通ったのさ、今までの態度を維持すれば衝突するばかりだろう
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
傲然ごうぜんとして鼻の先にあしらうごとき綱雄の仕打ちには、幾たびか心を傷つけられながらも、人慣れたる身はさりげなく打ち笑えど、綱雄はさらに取り合う気色けしきもなく、光代
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
楽屋の真中にあぐらをかいた朝野が、ひどく傲然ごうぜんとしたもったい振った口調で、そう言った。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
御就寝おやすみとのみ思っていた越前守忠相、きちんと端座して蒔絵まきえの火鉢に手をかざし、しかもそれをへだてて、ひとりの長髪異風な男が傲然ごうぜんと大あぐらをかいているではないか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
武士はもしやと思ってうしろの籠舁の顔を見た。その籠舁の左の眼も潰れていた。武士はまたびっくりしたが弱味を見せてはいけないと思ったので、いて傲然ごうぜんとして籠に乗った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかるに三友の容貌は少しもやわらがないのみか、かえって傲然ごうぜんとして彼を見下みくだすその態度に
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
奥の間の障子を開けて見ると、果して昇があそびに来ていた。しかも傲然ごうぜん火鉢ひばちかたわら大胡坐おおあぐらをかいていた。そのそばにお勢がベッタリ坐ッて、何かツベコベと端手はしたなくさえずッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一匹の畜生が——その仲間のやつを私は傲然ごうぜんと殺してやったのだ——一匹の畜生が私に——いと高き神のかたちかたどって造られた人間である(2)私に——かくも多くの堪えがたい苦痛を
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
琴嚢書簏きんのうしょろく典売シテほとんど尽ク。ここ朋友ほうゆう親戚しんせきこぞッテソノス所ヲとがム。シカモ九万傲然ごうぜんトシテ顧ズ。誓フニ酔死ヲ以テ本願トナス。奇人トイフベシ。詩モマタ豪肆ごうしソノ為人ノごとシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あるものはただ傲然ごうぜんたる気位である。満々たる闘志である。彼はいかなる場合にも森の王者たるの気位を失わない。万物の霊長たる人間が、鉄砲を差し向けた時、彼は逃げなかった。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
多分体格の立派なのと、うなじそらせて、傲然ごうぜんとしているのとのためであっただろう。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
回転椅子の上にりかえって傲然ごうぜんと腕を組んだ。葉巻の煙を高々と吹き上げつつうそぶいた。あたかも若林博士が、どこからか耳を澄まして聞いているのをチャント予期しているかのように……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そういうとしゅろは、まるでみどりの小だかい峰のように、目の下にひろがっている温室仲間の林を傲然ごうぜんと見おろしました。仲間はだれひとりとして、彼女に言葉を返す勇気のあるものはなかった。
考古学的時代からの数万年に亘るエジプト文化が生んだ所謂いわゆる「死の書」の宗教に伴って、王と奴隷とを表現する雄渾ゆうこん単一な厖大ぼうだいな美の形式であり、今日でもその王は傲然ごうぜんとして美の世界に君臨し
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)