鬱金木綿うこんもめん)” の例文
が、珍らしいと思ったのは、薄汚れた鬱金木綿うこんもめんの袋に包んで、その荷に一ちょうまがうべくもない、三味線をゆわえ添えた事である。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう言えば前にも今度と同じような鬱金木綿うこんもめんの袋へ何かはいって来た事も思い出したが、あいにくそれがどちらの姉だったか思い出せなかった。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
井桁格子いげたごうしの浴衣に鬱金木綿うこんもめんの手拭で頬冠ほおかむり。片袖で顔を蔽って象のそばから走り出そうとすると、人気ひとけのないはずの松の根方ねかたから矢庭やにわに駈け出した一人。
すると窓から流れこんだ春風はるかぜが、その一枚のレタア・ペエパアをひるがえして、鬱金木綿うこんもめんおおいをかけた鏡が二つ並んでいる梯子段はしごだんの下まで吹き落してしまった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と言いながら、がんりきの百が別に懐中から鬱金木綿うこんもめんの胴巻を取り出して、ポンとお蘭どのの前へ投げ出して見ると、自分ながら意外にズシンと来るおもみ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて鬱金木綿うこんもめんに包みし長刀と革嚢かばんを載せて停車場ステーションの方より来る者、おもて黒々と日にやけてまだ夏服の破れたるまま宇品うじなより今上陸して来つと覚しき者と行き違い
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
としいちへ、り出した松を運ぶ荷車が威勢よく駈けて通る。歳暮の品を鬱金木綿うこんもめん風呂敷ふろしきに包んで首から胸へさげた丁稚でっちが浅黄の股引ももひきをだぶつかせて若旦那のおともをしてゆく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
平次の手へ渡したのは、尺八を入れた鬱金木綿うこんもめんの袋。
「何のこったかわからないが、こっちの鬱金木綿うこんもめんでけっこう埋合せがついたからもういいじゃないか」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふもとへ十四五ちょうへだたつた、崖の上にある、古い、薄暗い茶店ちゃみせいこつた時、裏に鬱金木綿うこんもめんを着けたしま胴服ちゃんちゃんこを、肩衣かたぎぬのやうに着た、白髪しらがじいの、しもげた耳に輪数珠わじゅずを掛けたのが
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鬱金木綿うこんもめんの財布がゾロリと落ちて來ました。
うしろには綿わたあつい、ふつくりした、竪縞たてじまのちやん/\をた、鬱金木綿うこんもめんうらえて襟脚えりあしゆきのやう、艶氣つやけのない、赤熊しやぐまのやうな、ばさ/\した、あまるほどあるのを天神てんじんつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これを起して見ると、こいつが鬱金木綿うこんもめんの胴巻がないといって急に騒ぎ出しました。命から二番目のものを取られたほどに騒ぎ出しましたが、宿の者は、あんまり問題にしませんでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うしろには綿わたの厚い、ふっくりした、竪縞たてじまのちゃんちゃんを着た、鬱金木綿うこんもめんの裏が見えて襟脚えりあしが雪のよう、艶気つやけのない、赤熊しゃぐまのような、ばさばさした、余るほどあるのを天神てんじんって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも油でかためた銀杏返いちょうがえしをちょきんと結んだのがとがって、鬱金木綿うこんもめんの筒袖の袖口を綿銘仙の下からのぞかせた、炭を引掴ひッつかんだような手を、突出した胸で拝むように組んで、肩をすぼめながら
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)