高音たかね)” の例文
信長から、於蘭おらん、ひとつ小舞こまいせい、といわれればすすんで舞い、つづみをせよと命じられれば、非常によい高音たかねをそのたなごころから出して聞かせた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほーう、ほけきょうと忘れかけたうぐいすが、いついきおいを盛り返してか、時ならぬ高音たかねを不意に張った。一度立て直すと、あとは自然に出ると見える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
走って来る者、逃げる者、避難する者、荷出しする者、それを見物する弥次馬連! スリ半鐘ばん高音たかね、人々の悲鳴、そいつを縫って聞こえたのは
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日本橋にほんばし磯五いそごに頼まれて、麻布あざぶ十番の馬場屋敷ばばやしき住まい、高音たかねという女に書くのだ。すこし、おどしておきましょう」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
するとまた眼白籠が路ばたの枝に懸けられ、鳥ばかりが高音たかねを張つて、見𢌞してもその主人公はゐなかつた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
かおかおと啼くは鴉、ぴよぴよと啼くは雛鶏ひなどり、雀子はちゆちゆとさへづり、子を思ふ焼野の雉子きぎす、けんけんと高音たかねうつ。現身うつしみの鳥の啼くの、なぞもかく物あはれなる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
秋になりますると、これで町へ遠うございますかわりには、くりかきに事を欠きませぬ。からすを追って柿を取り、高音たかねを張りますもずを驚かして、栗を落してなりと差上げましょうに。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と一層、高音たかねを揚げて精一パいに泣出しますと、母親は私の坊主頭を撫でながら
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
梅雨中とは云いながら、此十日余思わしい日の目も見ず、たたみを拭くと新しい雑巾ぞうきんかびで真黒になった。今日はからりと霽れて、よろこばしい日光のになった。待ちかねた様にせみ高音たかねをあげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
歌は若い娘の声、いと高音たかねを入れた連奏つれびきである。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
快き静けさよ、かなたのこずゑに小鳥の高音たかね……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
嬉しさうな高音たかねを段々張つて来る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
日和ひよりつゞく雲雀ひばり高音たかねかな 夕兆
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
高音たかねに鳴らす 二度、また三度
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
羽抜鶏はぬけどり吃々きつきつとして高音たかねかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
胸張つて 高音たかね
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
「——高音たかねをだしてけば、夜詰よづめさむらいが眼をさますであろうし、いまのぐらいでは、あのほりの向こうへまではとどかぬであろうし……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか。高音たかねというのは、お前であったか。高音とお高、なるほどな。知らなかったぞ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
高音たかねをかけろ! これが普通の夜中なら、人も来ようし町役人、駈け付けてくれるかもしれねえが、今夜ばかりは駄目の皮だ! 島津のご前、御器所ごきそのお屋敷、そいつを囲んでお役人
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いさぐるピアノのけんうつつなき高音たかねのはしり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
笛はますます 高音たかねにひびく
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
高音たかねに歌はまほし。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
谷の底まで、夜明けの光がしこんでゆくにつれて、朝霧のなかには細かい虹が立ち、とりはしきりと高音たかねを張りあげていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
低き時は水のせせらぎもまるかと思われ、高音たかねを張りきる時は山嵐の樹木も一時に身ぶるいするかと思われます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高音たかねではないが、このすんだ四こう無音界むおんかいには、それが、いつまでもえないほどゆるく流れまわって、すべてのもののねむりをいっそう深くさせるようであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちいち、手順までいいつけてから、道誉はたちの奥へ消えこんだ。——東海、鎌倉はもう薄暑はくしょの候だが、伊吹のすそはようやく春闌はるたけたみどりの深みに駒鳥の高音たかねがやや肌さむいほどだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳴る、鳴る、鳴る! 笛はまたさらに高音たかねをつづけて鳴る。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初鴉はつがらす高音たかねに、木々のこずえは、くれないしかけていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)