飛移とびうつ)” の例文
短艇が太平丸の舷側へ着くなり、伊藤次郎は船長より先に飛移とびうつっていた。見よ、——其処そこには残留した船員たちの死体が転げている、あたり一面の鮮血だ。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
刻限こくげんといひ、みゝづくのまどをのぞくのから、飛移とびうつるあとをためて、天井てんじやうすみへトン、トコ、トン、トコ、トン——三晩みばんめは、むすめ家内かない三人さんにんなほつていたのである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
武村兵曹たけむらへいそう大軍刀おほだちブン/\とまわ海賊船かいぞくせん近寄ちかよらばわれからその甲板かんぱん飛移とびうつらんばかりのいきほひ。
奪ひ取しより面白く思ひ追々かうつむしたがひ同類を集め四國西國邊迄も海賊かいぞくかせぎ十餘年を消光おくりけるが其働そのはたらき飛鳥の如く船より船へ飛移とびうつり目にも見えざるほどゆゑ艘飛そうとびの與市と渾名あだな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんのあとへねずみても、ちつとも差支さしつかへはないのであるが、そのみゝづくがまどはなれて、第一だいいちのいてふへ飛移とびうつつたとおもころ、おなじガラスまどうへの、眞片隅まかたすみ、ほとんど鋭角えいかくをなしたところで、トン
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
イヤなくても、ひと弱點じやくてんじやうずることはや猛狒ゴリラは、たちま彼方かなたがけから此方こなた鐵車てつしや屋根やね飛移とびうつつて、鐵檻てつおりあひだから猿臂えんびのばして、吾等われらつかさんず氣色けしき吾等われら一生懸命いつせうけんめい小銃せうじう發射はつしやしたり
天狗てんぐ——など意識いしきしましたのは、のせゐかもれません。たゞしこれ目標めじるし出來できたためか、えたやうにつて、たふれてゆきをか飛移とびうつるやうなおもひはなくなりました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)